362 / 505
その後の日々 『別れと出発の時』 17
「瑠衣、いいのか」
霊柩車を見送っていると、アーサーが優しく声をかけてくれた。
「うん、もう満足したよ。僕は……ここまでで充分だ」
「そうか。いい葬儀だったな。白い曼珠沙華って美しいな」
「母さんみたいな花だ」
「そうだな」
心が静かに満たされた気分だった。
ひとつひとつ心残りだったことが、片付いていく。
父を見送り、執事の仕事を引き継ぎ……雄一郎さんを兄さんと呼べ……日本に思い残すことがなくなっていく。
少し寂しいけれども、こうやって英国に骨を埋める覚悟が出来ていくのかもしれない。
「瑠衣? 寂しいのなら、このままずっと日本で暮らしてもいいのだぞ」
「アーサー、君って人は……もっと自分を大切にしてくれ」
「俺の幸せの基準は君だからな。君の躰は、俺のランドマークだ」
「もうっ、今、それを言う? 」
「はは、そろそろ冬郷家に帰るか」
「うん、僕たちの帰国の日取りも決めないとね」
「分かった」
海里は斎場に行ったので、僕は柊一さまと雪也さま、テツと桂人と家に戻ろう。
「アーサー、荷物を取ってくるから、車で待っていて」
「了解! 」
アーサと別れて、僕はコートや鞄を取りに控え室に入ると、まだ参列者の集団がいたので、そっと横を通り過ぎようとした。ところが、突然腕を力強く掴まれたので、驚いてしまった。
「な、何ですか」
雄一郎さんと同年代の喪服姿の男性数人に囲まれて、ギョッとした。
「やっぱり! 君って、あの時の子だよね」
「えっ……」
「俺たちを覚えていない? ほら、絵のモデルをしてくれた子だよね~」
そこまで聞いて……ぞわっと血の気が引いた。
もう顔なんて覚えていない。だが、あの時されたことは、今でも覚えている。
アーサーによって、何重にも優しく包んでもらったから、もう大丈夫だと思っていたのに、こんな風に突然現れて、僕にまた触れてくるなんて最悪だ!
「離して下さい」
「つれないことを言うなよ。あの時、邪魔が入って中断したのが、ずっと心残りだったんだよ。なぁここで会ったのも何かの縁だな。今から続きをしないか」
「冗談はやめて下さい」
じりじりと壁に追い詰められ、嫌悪感が募る。
気色悪い奴ら……こんな奴に僕はもういいようにはされない。僕に触れてもいいのは、アーサーだけだ。そう思うのに、躰が震えてしまう。
「しかし偉く別嬪さんに成長したな~さぁ、行こうぜ。葬儀も終わったし、雄一郎の顔は立てた。もう、無礼講だ」
控え室から外に引きずりだされた。
その時、頭の中に、アーサーの声が響いた。
再会してから、寝ても覚めても……何度も何度も教え込まれたメッセージ。
……
瑠衣、困った時は、ひとりで頑張るな。
すぐに俺を呼べ! いつでも駆け付ける!
何故なら……俺は君の騎士だから!
あとがき(不要な方はスルーで)
****
今回のエピソードは別途連載の『ランドマーク』の1章と深くリンクしております。もはや『ランドマーク』の後日談のようになっていて、すみません。
『ランド―マーク』の方は、今ちょうど『まるでおとぎ話』の冒頭と重なっております。雪也が生まれる日のあたりです。
瑠衣が英国に戻るまでは『ランドマーク』でも、じっくり描いていく予定です。
「まるでおとぎ話」ワールドに浸ってくださる読者さまには、いつも感謝しております♥
ともだちにシェアしよう!