365 / 505

その後の日々 『別れと出発の時』 20

 父の死は一つの大きな別れではあったが、俺たちにとっては大きな始まりだった。  今日から兄、雄一郎は正式に家督を継ぎ、森宮家の当主となる。  ここ数年、父の持病と痴呆が進み、兄が父の代理で仕事も家も取り仕切ってきたが、これからは全権が兄に移る。全てを背負うのだ。 「兄貴……俺は家を出たが、何か困ったことがあったら、遠慮なく頼ってくれ。弟として出来る限りのことをしたい」 「海里……私たちは母違いで、正直良好な兄弟関係ではなかった。だが最後までお前は私を見捨てないでくれた。ありがとう」 「見捨てるだなんて、兄貴は……人としての温もりを持っていたから」  結局そこだ。すべては心なのだ。目に見えない部分が要になっている。だから人は、人に対して、真心を尽くそうとするのかもしれない。 「ありがとう。瑠衣の件も含めて、私を許してくれてありがとう。お前の可愛い恋人を大事にするといい。レストランとティールームがオープンしたら、私も遊びに行っていいか。桂人にも改めて正式に詫びたいし、長年勤めてくれたテツにも礼を言って、挨拶をしたい」  兄貴が躊躇いがちに聞いてくる。 「あぁ兄貴の好きにしたらいい。柊一と兄貴は、重なる部分があるから、きっと分かり合えるだろう。桂人もテツも賢い男たちだ。受け入れてくれるよ」 「ありがとう……お前の大切な人は、本当にいい子だな。それにしても、冬郷家は頼もしいメンバーで支えられているな」 「ありがとう。皆を認めてくれて」  父が荼毘にふされる間、兄貴と二人で茶を飲みながら、しみじみと語った。 『それでは……お時間となりました。骨上げに、どうぞお集まりくださいませ』 「……行くか」 「あぁ」  もう父の肉体は、この世には存在しない。  俺の生命の源は、黄泉の国へと無事に旅立った。 「兄貴、俺はもう家に帰るよ」 「そうか……帰るのか」 「あぁ俺の家にね」  精進落としの後、森宮家には戻らず、冬郷家へと帰った。  木枯らしが吹く路をポケットに手を入れて歩いていると、向こうから人影が近寄ってきた。 「海里さん」 「柊一! どうして? 」 「そろそろお帰りかと思って」 「あぁ」 「お帰りなさい」  俺を見て嬉しそうに微笑む柊一。  秋風に吹かれるサラサラな黒髪と愁いを帯びた瞳に、安堵する。  良家の子息らしい上品な佇まいの彼と、肩を並べて歩いた。  なぁ……君の澄んだ瞳に映る俺は、今、どんな風に見ている? 「お疲れでしょう」 「あぁ、流石に、疲れたよ」 「分かります。僕もそうでしたから。さぁ暖かい場所に行きましょう」 「今の俺には、君がいてくれて良かった」 「僕もです。今日という日に……海里さんのお傍にいられて良かったです。人はいつか死に別れてしまいますが、その日が来るまで、どうか僕の傍にもいて下さい」 「あぁ、いるよ。ずっといるから。お願いだ、俺から離れないでくれ」 「はい。絶対に離れません」  骨になった父を見た直後だったので、感傷的になってしまった。  しかし……こういう時にも、深く感じる。  柊一という男は、本当に不思議だ。見た目も心も、何もかも一見ひ弱で、か弱そうに見えるのに芯がある。  どんなにしなっても、折れない枝のように、しなやかな心を持っている。  それは、柊一と過ごすようになり、気付いたことだ。  一見、強靭な心を持っていそうな人ほど、実はポッキリと心が折れてしまうことが多い。柊一があの時、病院の屋上から身投げしそうになったのは「頑なな心」だったから。あの時の彼は、誰にも頼らず一人で全部抱えて苦しげだった。  だが俺と過ごし、心の平安を取り戻した柊一は、変わった。  数々の困難や不遇を乗り越えて得た物があったようだ。強い風を受け流す細い枝のように、柔らかでしなやかな心を、彼は手に入れた。  柊一自身が自分の弱さや苦手な部分を認めている。そこが肝心なのだ。  人は誰でも弱さを持っている。だから意固地にならず、甘えられる人がいたら甘えていいと思う。俺もそうするから…… 「海里さん、大きなお葬式でしたね。本当に……海里さんのような方が、僕と生涯を過ごしてくださる。もうそれだけでも、まるでおとぎ話のような出来事です」  もう、柊一の大好きなおとぎ話の世界に戻ろう。  一歩……冬郷家の敷地に足を踏み入れれば  そこは、俺たちだけの『Wonderland《おとぎの国》!』    別れがあれば、始まりがある。  今が、その時なのだろう。  さぁ、出発しよう!                             その後の日々 『別れと出発の時』 了 あとがき(不要な方はスルーでお願いします) 今回は、少し長めのご挨拶です! **** こんにちは。志位帆 海です。 ここまで『まるでおとぎ話』を読んで下さって、リアクションで応援をありがとうございます。私の毎日の更新の糧になっています。 『まるでおとぎ話』完結後の余談、『鎮守の森』完結後の余談、『ランドマーク』15年後の余談と、3作品が終結した余談を、20話連続で書きました。 今日の更新のラストを書いて、海里と柊一が『Wonderland』に戻るシーンを書くことが出来て、一息つけました。なので一旦「完結」マークに戻して、お休みをいただきます。こう書くと、すごい勢いで本棚が減ってしまうのですよね(苦笑)仕方がないのですが(・。・; で、休載の間、何をしようかと言うと……いろいろ楽しく考えております! しばらくはリアルが年末年始で忙しくなるのと、2月上旬発行予定の同人誌の準備をします。『色は匂へど…』の次話も1か月以上お待たせしているし、Twitterで投票していただいた『幸せな存在』の同人誌収録用のSSも書きます。 『まるでおとぎ話』の世界も、来年には本編の続き、雪也の手術と白薔薇のガーデンでの結婚式シーンは絶対に書きたいです。あと季節の短編も不定期で。スター特典の『近い未来』と『遠い未来』も更新しますね。いろんなお話のスター特典も放置していて。 同人誌には『まるでおとぎ話』の短編を収録し、バレンタインのとっても甘い二人を、挿絵つきで書き下ろします。 (同人誌の進捗状況はTwitterで随時更新します。@seahope10) 今後スピンオフ小説『ランドマーク』には、海里先生や柊一も沢山登場します。こちらの本編に出てきた瑠衣を、瑠衣視点で描いていくので興味深いので、こちらをお休みの間は、『ランドマーク』で、『まるでおとぎ話』を大切にしてくださる読者さまと、お会いできたら嬉しいです! 本当にいつもありがとうございます♥

ともだちにシェアしよう!