384 / 505
峠の先 19
「おばあ様、戻りました」
「まぁ二人とも鼻の頭が赤くて、トナカイさんみたいね」
「あっ……」
瑠衣と顔を見合わせて苦笑した。
「瑠衣はホームシックだったの?」
「あ、あの……」
「話してご覧なさい」
瑠衣は決まり悪そうに目元を抑えた。
「すみません。正直に申し上げます。日本でずっとお仕えしていたお子様が心臓の手術を受けたのを、今朝手紙で知って、ショックを受けてしまいました」
「まぁ……やっぱり。さっきお電話があったのよ。瑠衣のお兄さんから」
「えっ、海里からですか」
「そうよ。無事に手術が成功したから心配するなとの伝言よ。それから手術日について電話で知らせなかったのを許してくれと……」
それを聞いて、また瑠衣が落涙した。
「うっ……良かった。本当に良かった」
「良かったわね、瑠衣」
「ありがとうございます。僕は……雪也さまがお産まれになった日からお仕えしていました。ご病気が苦しい時は病室に一緒に泊まり込んで……ずっと辛かったのを目の当たりにしていたので、本当に本当に……嬉しいです」
「そうなのね」
おばあ様が、突然机から封筒を取り出した。
「アーサーには、仕事の依頼よ」
「えっ、何でしょうか」
このタイミングで、一体何だろう?
瑠衣と顔を見合わせてしまった。
「さぁ開けてみて」
封筒の中身は、日本への航空券だった。
「来月から日本のホテル・オーヤマに、大々的にグレイ家の紅茶を卸すことが決まったのよ。だからきちんとしたルートで輸入され、きちんと現地で保管されているのか視察して来て頂戴。グレイ家の名誉にかけて最高の状態の茶葉をお客様に召し上がっていただけるよう、これは重要な任務よ」
「お……おばあ様、それって」
「滞在先は、ホテルではなく……冬郷家にお願いしたわ。瑠衣、あなたはアーサーの補佐として同行してね」
航空券は最初から、二枚あった。
流石だ!
おばあ様は、俺の考えの上を行く。
しかも速やかに。
「で、ですが……僕たちは昨年、二度も日本に行かせていただいているのに……こんなに頻繁では、申し訳ないです」
瑠衣が動揺し、恐縮する。
「まぁ……瑠衣は可愛いことを言うのね。昨年はあなたたちの新婚旅行とプライベート。今回は……私が依頼した仕事よ」
「あ……ありがとうございます」
「瑠衣、私はね、あなたが可愛くて溜まらないの」
おばあ様が瑠衣をふわりと抱きしめる。
瑠衣も嬉しそうに目を閉じる。
あぁ……最高の光景だ。
「おばあ様、大好きです」
「うふふ、私もよ。可愛い坊やのお見舞いもゆっくりとしていらっしゃい」
「あ……ありがとうございます」
少女のように微笑む、おばあ様。
心の底から嬉しそうな瑠衣。
それを温かく見守る俺。
こんな日々に憧れていたと……目を細めてしまう。
おしらせ(不要な方はスルーです)
****
夏休み企画第一弾!として、志生帆海の創作小説の中で【あなたの推しTOP3】を教えて下さい(攻め中心)というアンケートを本日よりスタートしています。(7月26日9時締め切り)
推しキャラへの愛を、ぜひぜひ語って下さい~楽しみにしています。
https://tagvote.grinspace.jp/vote/Vote?Key=582f36af5cf7483589ff10dff7d3b46e
投票されたことを教えていただけると、後日抽選に参加できます。
詳細はTwitter@seahope10 より、ご確認ください♡
https://twitter.com/seahope10/status/1418018767334903810?s=20
ともだちにシェアしよう!