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羽ばたく力を 4

 瑠衣からの連絡を受け、急いで雪也くんの病室に向かった。 「雪也くん、しっかりしろ!」 「せんせ……ボク……さっき……瑠衣の夢……見て……ケホッ、でも夢で……残念……」  まだ全身麻酔の影響が喉に残っており、声が出にくいのだ。  分かっていたことだが、術後の雪也くんは……華奢な身体のせいか痛々しく辛そうだ。  がっかりした面持ちの雪也くんを励ましてあげたい。  言葉の力――  それも立派な薬になる。 「雪也くん、きっと近いうちにいいことがあるよ」 「それは、まほう……ですか」 「そうだね、魔法だよ」 「……ここは……病院なのに?」 「信じないのかい?」 「しんじ……ます」    柊一が高熱にうなされながらも俺に託したのは、兎のぬいぐるみだった。タキシードをきた兎には、どんな意味があるのか。 「これを、柊一から預かってきたよ」 「あっ、これは……瑠衣の代わりなんです。瑠衣がいなくなって寂しがっていた時、兄さまが買って下さったのです」 「……そうだったのか」 「やっぱり……瑠衣に会いたいです……」 「きっと夢は叶うよ」 「……はい」    雪也くんの枕元にぬいぐるみを置くと、安心したのか……スッと眠りに落ちていった。   きっと次に目覚めた時には、本物の瑠衣になっているよ。  魔法は信じたものには、きっと……届く!    雪也くんの病室を出た後、外来の診察にあたり、一息つくと声をかけられた。 「海里先生、お客様ですよ」 「分かった」 「素敵な紳士ですね」  診療室奥の扉を開ければ……そこには瑠衣がいた。  執事服をビシッと着こなした弟は、こんなに頼もしかっただろうか。 「海里!」 「瑠衣、よく来てくれたな」 「柊一さまの様子を見て来たよ」 「どうだった?」 「うん、熱はまだあったけれども、水分もお粥も取れたので回復は早いと思うよ。気力が戻ってきていたしね」  瑠衣が嬉しそうにニコッと微笑む。  弟の可愛い笑顔と凜とした佇まいに、胸の奥が熱くなった。 「海里……君も大変だったね。雪也さまの手術は荷が重たかっただろう。頑張ってくれてありがとう」  瑠衣が俺の肩に手をのせて労ってくれると、不覚にも泣きそうになった。  瑠衣……お前は本当に強くなったな、頼もしくもなった。  高校時代、いつも俺の陰に隠れていた瑠衣は……もういない。 「瑠衣が来てくれたら、俺もぐっと楽になった。感謝しているよ」 「ふぅ……なんだか夢を見ているみたいだ。僕……」 「どうして?」 「柊一さまにも、とても喜んでもらえたんだ。海里、僕は皆の役に立っているの?」 「当たり前だろ! さぁ雪也くんも瑠衣に会いたがっている。行ってやってくれ」 「うん、分かった。病室はどこ?」  病院の長い廊下を……背筋を正して歩く瑠衣の姿は、凜として清々しい。  まさに執事そのものだった。  執事はお前の天職だよ。  そして瑠衣は、離れて暮らしていても俺の大切な弟だ。  どうか俺の小さな患者さんの看病を頼む!          

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