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羽ばたく力を 7

「アーサーさんも、来てくれたのですね」 「あぁ……雪也くん、今は辛い時だな。俺も術後はかなりキツかった。大人でも弱音を吐くんだから、遠慮するな。瑠衣に沢山甘えていいんだぞ」 「ありがとう……ございます」  アーサーが優しく寄り添って、雪也さまに話し掛けてくれたのが、嬉しかった。 「瑠衣、暫く病室に泊まってやるといいよ」 「あの……でも、いいの?」 「当たり前だ。まだ雪也くんは身体を自由に動かせない。水を飲みたい時、身体の向きを変えたい時、傍に信頼できる付き添いが居たらどんなに心安まるか、俺は知っている」 「あ、ありがとう……アーサー」 「俺も助かったよ」 「うん……」  アーサーの術後、僕は24時間、君の傍にいた。  あの日々を思い出してしまうね。君は四六時中付き添う僕の体調を心配したが、僕は根っからの執事体質のようで、何かしている方が疲れないのだ。むしろ会えないでひとりでじっとしている方が怖いし辛かった。 「アーサーさん、あの……ありがとうございます」 「雪也くん、君は、絶対に日に日に良くなる! 楽になる! もっと自分の身体を信じてやれ」 「あ……はい!」  アーサーと雪也さまの会話を聞いて、海里が溜め息をついた。 「参ったな、アーサーは、医者よりいいことを言う」 「そうか。だが海里、お前が無事に手術を成功させたからだぞ。それがなかったらこんな風に話せない。海里、お疲れさま」 「そうだよ。海里……雪也さまを救ってくれてありがとう」 「海里先生、海里先生じゃなかったら……僕、怖かったです。手術室で、海里先生が僕を見つめてくれたから安心できました」  皆で感謝の意を伝えると、海里は珍しく目元を染めていた。  泣きそうなの? 海里……  いつも威風堂々としている海里。  君も随分と柔らかな感情を露わにするようになったね。  僕も君も……愛し愛され、本当に変わったね。 「じゃあ瑠衣、よろしくな」 「うん。アーサー、海里、ありがとう」  **** 「アーサー、寂しくないのか」 「ん? 何がだ?」 「いや、瑠衣と暫く離れるの大丈夫なのか」 「まぁ、こうなるのは覚悟の上、来日したからな。それに俺も雪也くんと柊一くんが大好きだ。だから役に立てるのが嬉しいよ」  アーサーは、いい男だ。  心が澄んでいる。  瑠衣を溺愛しているが、ちゃんと瑠衣の生き方を尊重している。  俺も見習いたい。 「それにさ……」 「なんだ?」 「今回は俺の親友とゆっくり過ごしたい気分なんだ。俺は男友達も大切にするぜ」 「な……なんだ? 急に照れる」 「海里、もっと砕けろよ。俺の前では」 「ふっ、アーサーには敵わないな。ありがとう」  アーサーと肩を並べて、病院を出た。  ここ数日のモヤモヤとしていた気持ち、疲れ果てた気持ちが、一気に晴れていく気がした。 「そうだ! 実はさっき聞き込み調査をしたんだ」 「一体何を?」 「海里のことは皆、カッコイイと噂しているようだぜ。医者として手術の腕が最高に良くて、外見も中身もカッコイイ先生なんだって口を揃えて言っていたぜ。遠巻きにちらちら見ているのは『悪意』じゃない、『憧れ』だ。だから卑下するなよ。まぁ今日はさ、俺もいたから特に視線が痛いほど熱かったのさ!」  アーサーはやはり太陽のような男だ。  こんな男に守られる瑠衣は、本当に幸せ者だ。  俺もこの長年の凝り固まった考えを改めてみよう。  柊一と歩む……この先の人生。  もっと柔らかく、和やかに……穏やかに過ごしたいから。  

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