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羽ばたく力を 9
「あぁ……良かった。熱はだいぶ下がったようだね」
既にテツと桂人と報告は受けていたが、俺自身の手で君に触れて確認したかった。
「はい……海里さんの魔法のおかげで楽になりました。あの……英国から瑠衣が突然来てくれたのです」
「あぁ、病院で会ったよ。良かったな。だが俺は何もしていないよ。瑠衣のことなら、瑠衣の意志だ」
「いいえ。僕にとっては……やはり海里さんがかけて下さった魔法です。海里さんと巡り逢えてから、いつも思っています。海里さんは僕の北極星《ポラリス》です。素敵なことばかり引き寄せて下さいます」
柊一はいつも俺を優しく持ち上げてくれる。
おとぎ話が大好きな柊一らしい言葉を繋げてくれる。
「あの、僕……海里さんに守っていただくのが大好きです。僕も男なのに……すみません」
「いや、俺にとっては、何よりもやる気の出る言葉だ。ありがとう」
俺がもしも夜空の星ならば、美しく輝けるのは柊一がいるからだ。
君が道に迷わないように照らしてやりたくて、君が震えたり泣いたりしないように守ってやりたくて、君のために発光している。
「海里さん、今日はとてもお疲れですね。一緒に眠れなくて、ごめんなさい。もどかしいです」
「そんなことは気にしなくていい」
「あの……瑠衣が来たということは、アーサーさんもいらしているのですよね?」
「そうだよ」
「よかった。お二人は無二の親友なので、僕も安心です。どうぞ久しぶりの再会……ゆっくりお喋りでも……」
「分かった。今日はアーサーと過ごすよ。柊一はもう休むこと」
「はい、そうします。海里せんせ……」
「ふっ、君がそう呼ぶのは珍しい」
柊一の汗を拭ってやり、そのまま唇にキスしようとしたら、小さく怒られた。
「お、お医者様がそんなことでは駄目ですよ。そういうのを……」
「医者の不養生?」
「はい、そうです」
「参ったな、では今宵はこちらに」
額に軽くキスを落とすと、柊一は甘く微笑んでくれた。
熱のせいで潤んだ瞳が、妙に色っぽく見えてしまった。
うーむ、医者にあるまじき思考回路か。
「ありがとうございます。よく眠れそうです」
「そうか、良かったよ。お休み」
「はい、お休みなさい」
****
柊一と少しの時間だったが触れあえたので、グンと元気になった。
やはり君は、俺を輝かす存在だ。
しみじみと満たされた気持ちで、アーサーが待つ客間に入った。
「アーサー、待たせたな」
「おーい、医者の不養生はよくないぜ。海里先生」
「え?」
「さぁ、海里もこっちに来いよ!」
いきなり腕を引かれベッドに押し倒されたので、ギョッとした。
「ははっ、襲わないから、安心しろ」
「あ、当たり前だ! この馬鹿力!」
「ははっ、海里は寝不足だったようだな」
「……そんなことはない」
「強がるなよ。俺にはカッコ良くなくていい」
アーサーがまだ少し濡れた髪を振り払い、快活に笑った。
相変わらず、素直で憎めない奴。
「全く……アーサーといると調子が狂うな」
「おぉ、調子をもっと崩せよ」
「ふぅ」
わざと俺の心を解そうとしてくれている気遣いが嬉しくて、思わず彼の肩にもたれてしまった。
「ふぅん、いいシチュだが、海里には変な気分にはならないもんだな」
「ははっ、当たり前だ」
「しいていえば王子と騎士が、身を寄せ合っているようだ」
「まぁそんなところだ、柊一が喜ぶシチュかも、戦を終えた王子と騎士でどうだ?」
「いいな」
俺を「僕の王子様」と呼んでくれる柊一が好きだ。
アーサーもきっと「僕の騎士」と呼んでくれる瑠衣が大好きなのだろう。
「アーサー、俺たちの恋人は最高に可愛いな」
「あぁ瑠衣の可憐さったらないぜ」
「いやいや、柊一は本当に素直で優しく一生懸命だ」
結局、俺たちの話す内容は、まるで嫁自慢。だが、こんな風に柊一の愛くるしさを話せる相手はいないので、大いに惚気てしまった。もちろんアーサーも負けずに惚気てくる。
「なぁ、早く雪也くんも元気になって、皆で笑い合いたいな」
「あぁ、その日が来るのは夢じゃない。もう見えている現実だ」
「海里、頑張ったな。手術さぞかし緊張したろう。本当にお疲れ様」
アーサーが俺の肩を抱いて、エールを送ってくれる。
心強い親友からの労いが、心地良かった。
「逃げずに立ち向かって偉かったな。やっぱり海里は俺の自慢の親友だ」
「アーサー、ありがとう」
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