394 / 505

羽ばたく力を 9

「あぁ……良かった。熱はだいぶ下がったようだね」  既にテツと桂人と報告は受けていたが、俺自身の手で君に触れて確認したかった。 「はい……海里さんの魔法のおかげで楽になりました。あの……英国から瑠衣が突然来てくれたのです」 「あぁ、病院で会ったよ。良かったな。だが俺は何もしていないよ。瑠衣のことなら、瑠衣の意志だ」 「いいえ。僕にとっては……やはり海里さんがかけて下さった魔法です。海里さんと巡り逢えてから、いつも思っています。海里さんは僕の北極星《ポラリス》です。素敵なことばかり引き寄せて下さいます」   柊一はいつも俺を優しく持ち上げてくれる。  おとぎ話が大好きな柊一らしい言葉を繋げてくれる。 「あの、僕……海里さんに守っていただくのが大好きです。僕も男なのに……すみません」 「いや、俺にとっては、何よりもやる気の出る言葉だ。ありがとう」    俺がもしも夜空の星ならば、美しく輝けるのは柊一がいるからだ。  君が道に迷わないように照らしてやりたくて、君が震えたり泣いたりしないように守ってやりたくて、君のために発光している。 「海里さん、今日はとてもお疲れですね。一緒に眠れなくて、ごめんなさい。もどかしいです」 「そんなことは気にしなくていい」 「あの……瑠衣が来たということは、アーサーさんもいらしているのですよね?」 「そうだよ」 「よかった。お二人は無二の親友なので、僕も安心です。どうぞ久しぶりの再会……ゆっくりお喋りでも……」 「分かった。今日はアーサーと過ごすよ。柊一はもう休むこと」 「はい、そうします。海里せんせ……」 「ふっ、君がそう呼ぶのは珍しい」    柊一の汗を拭ってやり、そのまま唇にキスしようとしたら、小さく怒られた。 「お、お医者様がそんなことでは駄目ですよ。そういうのを……」 「医者の不養生?」 「はい、そうです」 「参ったな、では今宵はこちらに」  額に軽くキスを落とすと、柊一は甘く微笑んでくれた。  熱のせいで潤んだ瞳が、妙に色っぽく見えてしまった。  うーむ、医者にあるまじき思考回路か。 「ありがとうございます。よく眠れそうです」 「そうか、良かったよ。お休み」 「はい、お休みなさい」    ****  柊一と少しの時間だったが触れあえたので、グンと元気になった。  やはり君は、俺を輝かす存在だ。  しみじみと満たされた気持ちで、アーサーが待つ客間に入った。   「アーサー、待たせたな」 「おーい、医者の不養生はよくないぜ。海里先生」 「え?」 「さぁ、海里もこっちに来いよ!」  いきなり腕を引かれベッドに押し倒されたので、ギョッとした。   「ははっ、襲わないから、安心しろ」 「あ、当たり前だ! この馬鹿力!」 「ははっ、海里は寝不足だったようだな」 「……そんなことはない」 「強がるなよ。俺にはカッコ良くなくていい」  アーサーがまだ少し濡れた髪を振り払い、快活に笑った。  相変わらず、素直で憎めない奴。   「全く……アーサーといると調子が狂うな」 「おぉ、調子をもっと崩せよ」 「ふぅ」  わざと俺の心を解そうとしてくれている気遣いが嬉しくて、思わず彼の肩にもたれてしまった。 「ふぅん、いいシチュだが、海里には変な気分にはならないもんだな」 「ははっ、当たり前だ」 「しいていえば王子と騎士が、身を寄せ合っているようだ」 「まぁそんなところだ、柊一が喜ぶシチュかも、戦を終えた王子と騎士でどうだ?」 「いいな」    俺を「僕の王子様」と呼んでくれる柊一が好きだ。  アーサーもきっと「僕の騎士」と呼んでくれる瑠衣が大好きなのだろう。 「アーサー、俺たちの恋人は最高に可愛いな」 「あぁ瑠衣の可憐さったらないぜ」 「いやいや、柊一は本当に素直で優しく一生懸命だ」  結局、俺たちの話す内容は、まるで嫁自慢。だが、こんな風に柊一の愛くるしさを話せる相手はいないので、大いに惚気てしまった。もちろんアーサーも負けずに惚気てくる。 「なぁ、早く雪也くんも元気になって、皆で笑い合いたいな」 「あぁ、その日が来るのは夢じゃない。もう見えている現実だ」 「海里、頑張ったな。手術さぞかし緊張したろう。本当にお疲れ様」  アーサーが俺の肩を抱いて、エールを送ってくれる。  心強い親友からの労いが、心地良かった。 「逃げずに立ち向かって偉かったな。やっぱり海里は俺の自慢の親友だ」 「アーサー、ありがとう」         

ともだちにシェアしよう!