395 / 505

羽ばたく力を 10

 狭い、狭すぎるぞ!  しかもこの圧迫感と寝苦しさ……  親友アーサーよ。  お前は親友だが、この寝相の悪さだけは受け入れ難い。だいたい瑠衣にも、このような寝相なのか。俺の大事な弟が圧死するじゃないか!  と、夢の中で叫んでいた。  抜け出られないのは、眠いから……ただそれだけ。  昨夜……久しぶりにぐっすりと眠れたんだ。雪也くんの手術前夜から寝不足が続いていたので、まだ目が開かない。  すると……  パタパタパタ――  廊下を歩く軽やかな足音。  ピタリと停止した足音。  カチャリ――  躊躇いがちに開く扉。  ま、まさか柊一では!?  こんな姿を見られたのでは、俺……面目ないぞ!  慌てて飛び起きると、ゴツンっと頭が相手とぶつかった。 「痛っ」 「痛っ!」  ん? この声は……。 「石頭だな。海里さん」 「なんだ桂人か」 「誰だと思って? まさか柊一さんにそんな醜態を見せるつもりだったのですか」 「はぁ」  俺は真っ裸(いつもの習慣で眠る時は服を脱ぐ)で、俺の腰には‼‼  アーサーの逞しい腕がガッチリと絡まっていた。  お、おい、アーサー‼ 何故、お前まで裸なのだ‼? 「ははっ、まるでそれは情事の後ですよ。いや笑い事ではないのか。由々しき一大事かもしれないな」  執事服の桂人が小気味よく笑っているので、俺も釣られて笑ってしまった。 「なんだ? 騒がしいな」  アーサーも起きたらしく、アッシュブロンドの短い巻き毛が揺れている。  なんだか天使のベルみたいだな。 「うわぁああ! なんだこの事態は! ああああ、瑠衣。神に誓って俺は無実です」  十字を切るアーサーの憐れな様子に、桂人と顔を見合わせて笑った。  桂人はすっかり元気になっていた。昨日の危うさは消え去り、生き生きとしていた。  ふうん、さてはテツと熱い情事を繰り広げたようだ。 「桂人、テツは熱い男だろ? 夜な夜な抱かれる気分はどうだ? 蕩けそうか」 「なっ!」  逆襲された桂人は、耳まで赤くして照れていた。 「う、五月蠅いな。ほら紅茶だ」  ぶっきらぼうに紅茶をいれて、差し出した。 「うわ! これ本気で紅茶か」 「あぁ高麗人参入りの紅茶さ、お疲れなお二人にスペシャルブレンドさ」 「Oh、 my God!」  **** 「くすくす、くすっ」  鈴を転がすような可愛い声で、柊一が笑っている。  朝の剣幕を洗いざらい話すと、まるで新しいおとぎ話を聞くように、ワクワクした表情を浮かべていた。 「おいおい、まるで耳年増のようだぞ」 「あ、すみません。麗しい王子様と騎士の妖しい物語を想像していたら、楽しくなってしまいました」 「そんな不気味な想像はもうよせ。騎士は瑠衣のもので、王子は柊一のものだ」 「あ……はい」  柊一は耳朶を染めて俯いた。 「どれ、もう熱は下がったな。じゃあ診察しよう」 「はい」 「口を開けて」 「……」 「もっと大きく」 「あーんっ……」  うっ、その声……響くぞ。   「もう喉の赤いのは引いたな。まだ痛むか」 「少しだけ、つばを飲み込む時に」 「あと2、3日もすればぐっと良くなるよ。辛抱して」 「では……雪也の病院にはまだ行けませんね」 「無理をするな。その間は瑠衣に任せろ」 「はい……」 「じゃあ、胸を見せて」 「はい」  柊一がパジャマの裾を控えめに捲る姿が、扇情的で……溜まらなかった。 「もう少しあげて」 「……はい」 「もっと上でないと、聴診器をあてられないよ」 「うっ……はい」  両胸の淡い色のつぶらな尖りが、俺の視線を浴びて立ち上がったように見えた。  そそられるな。 「少し冷たいよ」 「あ……んんっ」  聴診器を胸の尖りに掠めるようにあてると柊一は色めいた声をあげた。 「柊一、それはまずい」 「あ……僕、なんて声を……」  彼は真っ赤になって口元を押さえ、俺は前屈みになってくっと耐える羽目になった。  俺の恋人は清らかで淫らな……可愛い天使だ。  今日も愛しているよ――  

ともだちにシェアしよう!