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羽ばたく力を 11

「……参ったな」  海里が出て行った後、寝室の惨事を見て、唖然としてしまった。  俺……裸の海里につられて、パジャマをわざわざ脱いだのか。  おいおい、何がしたかったのかと苦笑してしまう。  桂人くんは随分冷ややかな目で見ていたな。  情事の後のようだと失笑していた。  あいつ、さてはテツの裸を見慣れているのか、俺たちの裸体に動じなくてつまらない。  もし紅茶を持ってきたのが瑠衣だったら、大変なことになっていただろう。  きっと真っ赤な顔でティーカップを床に落として、大惨事だ。  さてと、証拠隠滅だ。  俺は床に放り投げたパジャマを拾い、衣装部屋に向かった。  冬郷家の衣装部屋も、なかなか良い。  俺が瑠衣に用意した実家よりは手狭だが。  カシミアのアーガイルセーターを選び、鏡でヘアスタイルを整えた。 「アーサー・グレイ、すっかり元気そうだな」     鏡の中の自分に話しかける。  健康を取り戻した自分の顔を、指で弾いた。    それにしても……久しぶりに会った海里は明らかに疲労困憊だったな。  いつも完璧な王子、海里の綻びを、俺は見逃さなかった。  俺も海里も、育ちのせいか……つい長年の癖で澄ました顔をしてしまうから分かる。  俺たちは同志だ。お互いに、生涯の相手と出逢ったのだ。  俺たちの恋人は砂糖菓子のように甘くて脆いから、大切に包み込んでやりたいよな。  もちろん瑠衣は凜としたいい男だし、柊一くんも旧家の当主らしく堂々としているが、共におとぎ話が好きな可愛らしいところがある。  だから……俺たちの前では寛いで欲しい。  人と人は、バランスだろ?  いい塩梅でもたれ合い、支え合うのが、上手くいくコツさ!  ****  病院に出勤してすぐ白衣を羽織った。聴診器を首から提げコツコツと硬質な音がなる廊下を歩けば、一気に気も引き締まる。  医師、海里の誕生だ。 「おはよう。瑠衣、入るよ」 「海里、おはよう」  すぐに瑠衣が出迎えてくれた。    瑠衣は少しは眠れたのだろうか。疲れていないのか。  ところが瑠衣は、顔色も良く執事らしくビシッとしていた。    そうか、瑠衣は看病に慣れているのだ。雪也くんの入院時はいつも泊まり込んでいた。そしてアーサーの時も献身的な看病をしていた。だから落ち着いているのだ。  瑠衣の存在が、こんなにも安心感をもたらしてくれるなんて。  来てくれて、ありがとう。   「雪也くんは?」 「検温が終わって、朝食を食べたらまたウトウトと……」 「痛み止めの点滴で眠くなるのだろう。少し寝た方がいい。そうだ、瑠衣は朝食を食べたのか」 「あ、まだ……」 「ほら、食べろ」 「あ! 僕に?」  そんなことだろうと思った。桂人が作ってくれたサンドイッチを持ってきて正解だ。 「ありがとう。これ桂人が作ったの?」 「具が独特だが、悪くないぜ」 「ハーブが随分効いているね、あれ……」  瑠衣が突然俺の胸元をクンクンと嗅いで来た。  な、なんだ? いきなり……!   「なんだよ?」 「ん……海里、昨日……誰と寝た?」 「え……っ」  やましいことが、わんさかあって、顔が引き攣ってしまった。 「君から……アーサーの匂いがする。どうしてだろ?」  不思議そうに問われて、まさか裸で抱き合って眠っていたとは言えず、しどろもどろになってしまった!  

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