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羽ばたく力を 14
「瑠衣さん、アーサーさんはいつもの部屋に泊まりましたよ」
「うん、分かった」
「あの、昨日は海里さんも一緒だったようです」
「ん? ……あぁ、そうかだからなんだね」
海里からアーサーの匂いがしたのは、そのせいだったのか。
「とても……仲睦まじい親友なんですね」
桂人が、ふっと……羨ましそうな顔をした。
ふぅん……そんな表情も出来るようになったのか。
15歳で人生を閉ざされてしまった桂人だから、親友と呼べる人がいないのだろう。
僕もだよ……僕もずっとそうだった。あの頃は何もかも諦めた人生だったから。
「よし、桂人と僕もそうなろう。君は僕にとって数少ない血縁者で従兄弟で、とても気を許せる存在なんだ」
「瑠衣さん、おれのこと……そんな風に思ってくれるのか」
不慣れな桂人と僕だから、アーサーと海里のようにはいかないけれども、もっと歩み寄れる。
だから……お互いに、照れ臭く笑った。
アーサーが使っている部屋に入ると、今度は海里の匂いが残っていた。
「くすっ、海里はしどろもどろで話を逸らしたけど、そういう理由か。きっと夜な夜な話しているうちに、同じベッドで一緒に眠ってしまったんだね」
乱れたベッドに、脱ぎ散らかした服。
「もう、アーサーは散らかして」
洗濯物を拾い上げていくと見慣れぬパンツを発見した。
んん? これってアーサーのではない。
アーサーの衣類は全部僕が選んでいるから分かるの。
もしかして……さては海里だな。
海里、君は眠るとき時、相変わらず裸に?
そんな姿で……僕のアーサーの隣で裸で眠るなんて、ずるいよ。
少し妬いてしまう自分に苦笑した。
「馬鹿だな。海里は大事な兄なのに……僕だってロンドンでは海里と同じベッドで眠ったこともあるのに」
洗濯物を手際よくまとめ、脱衣所の籠に入れた。
そうこうしているうちに、湯船に湯が張れたようだ。
英国ではシャワーで済ますことが多いので、久しぶりの湯船だ。
肩まで浸かると心地良い蒸気が立ち上がり、眠気に誘われた。
「あぁ……気持ちいい」
湯船のへりにタオルをのせて、頭をもたれた。
「ふぅ……流石に疲れたな」
英国から飛行機で日本に、そのまま冬郷家、そして病院で寝ずの看病。雪也さまが幼い頃はもっと体力があったような気がするのに、僕も歳かな?
ゆったりとした心地になって、目を閉じた。
「……アーサーに早く会いたい」
まどろんでいく。眠ってはダメなのに……。
****
「うわ! 雨か」
冷たい雨に降られ、白薔薇の屋敷に戻ってきた。
「アーサーさん、大丈夫ですか。連絡を下されば傘を持っていったのに」
「傘をさす習慣がなくてな。しかし、参ったよ。日本の雨は大粒でびしょ濡れだ」
「あぁ、もうっ、風邪を引きますから、早くお風呂に」
タオルをもった桂人に早く早くと背中を押された。
「お風呂の準備は整っていますから」
「そうか、気が利くな」
「えぇ、きっと気に入っていただけるかと」
「うん?」
「いってらっしゃいませ」
「ふぅん……桂人も執事が板についてきたな」
風呂を浴びたら、今度は雪也くんの見舞いに行こう!
そうしたら、ようやく瑠衣に会える。
一晩いなかっただけで寂しかったぞ。
それが嬉しくて、俺は階段を軽やかに駆け上がった。
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