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羽ばたく力を 15
自室に戻ると、脱ぎ散らかした衣類が綺麗に消えて、あのやましいベッドも綺麗に整えられていた。
へぇ……風呂の準備と言い、気が利くな。桂人なりに執事の仕事が板に付いてきたようだ。頑張っているんだな。あとでたっぷり褒めてやろう。
とにかく、やった! ありがとうな。これであの海里との疑惑は証拠隠滅だと、心の中で桂人に礼を言った。
「しかし俺……どうして海里と裸で抱き合って眠っていたんだ? 真剣に焦ったよ」
瑠衣がいないので……無造作に濡れた衣類をポンポン脱ぎ捨てながら、首を捻った。
海里が裸で寝る癖があるようだが、俺は違うぞ! 英国紳士たるものきちんと寝間着を着て眠る!(正確には瑠衣に着替えさせてもらうのが楽しみなんだ)
部屋で全ての衣類を脱いで、真っ裸になってから風呂場にスタスタと向かった。
もう湯は張ってあると桂人が言っていたので、すぐにでも日本式の湯船に浸かりたかった。英国では習慣で、シャワーで済ますことが多いが、ここは日本だ。雨に濡れた身体を、湯船に存分に温めてもらおう。
風呂場の中は、湯気で白く霞んでいた。
ここはまるで桃源郷で、まるで仙人や隠者の住む洞窟のようだ。いやいやそれはムードがないな。そうだ、女神のいる泉はどうだ?
そんなことを考えながら、白い霞を突っ切り湯船に辿り着いた時に、視界に俺以外の肌色の姿を見付けてしまった。
つい条件反射で、朝見たばかりの海里の裸体を思いだし……
「か、海里!?」
「えっ……?」
よく見れば黒髪だ!じゃあ……
「る、瑠衣!」
「アーサーなの? ごめん、靄っていてよく見えなかった。それに……僕、少し転た寝を」
「おいおい、風呂場で溺れたらどうするんだ!」
俺は勢いよく湯船に飛び込み、瑠衣を抱きしめた。
「ごめん、心配かけて」
「瑠衣ぃ~会いたかった」
「ん、僕も……昨日はありがとう」
「雪也くんどうか。しっかり看病できたか、術後でまだ辛いだろう。分かるよ」
「うん、夜中に何度も喉が渇いたと起きてね……」
「分かる。喉の調子がおかしいんだよ」
瑠衣を抱き上げ俺の膝に座らせてやると、瑠衣も素直に胸に背を預けてくれた。
「うれしい……会えて……ここで会えると思わなかったよ」
「俺だって驚いたよ。病院に行かないと会えないと思っていた」
二人とも裸なわけだが、ここは風呂場なので瑠衣もそこまで恥ずかしがらないのが新鮮だった。
それより俺に会えて嬉しいと、何度も言ってくれる。
可愛いなぁ。
可愛い瑠衣……執事として凜と澄ましているのに、俺の腕の中ではこんなに可愛いのだから参るよ。
「あの……アーサー、聞いてもいい?」
「何だ?」
「何でも話してくれるよね。僕には」
「もちろんだ! 騎士の約束をしただろう」
「じゃあ……さっきどうして……僕を海里と呼んだの?」
「う……」
聞こえていたのか!
「そ、それは、だな……」
「昨夜は……一緒に眠ったんだってね」
「あ、あぁ」
全然……証拠隠滅出来ていなかった。
「海里は……また裸で眠ったんだね?」
ドキっ!
「ははは、そうなんだよ。ところでアイツ、なんでいつも裸なんだ?」
「昔からだよ。英国で二人暮らしの時もそうだった」
何だってー!
「で、アーサー、君も裸だったの?」
「ええ……えっと……」
瑠衣がじろっと見つめて来る。
ううう、俺はこの目に弱いんだよ。
「そうなんだ。何故か裸で海里と抱き合っていた」
「だ、抱き合う? 裸で抱き合っていたの? 君と海里が?」
瑠衣が目を見開いて固まった。
だよな……固まるよな、その光景は俺が見ても怪しかった。
「な、何それ? あぁ……そうか。だから海里があんなに君の香りをつけて、妬いちゃうな……ずるいよ」
いきなり瑠衣がくるりと向きを変え、俺の唇を吸った。
「お、おい……」
「んっ、ここも……触って……」
俺の手を自ら……胸元と蕾へと導いていく。
こんなに積極的な君は見たことがないぞ!
「ずるい、ずるい……」
「お、おい……落ち着けって」
「……僕の匂いも覚えてよ」
「あぁ瑠衣、やばい、今すぐ抱きたくなるよ」
「抱いて……抱いて欲しい……」
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