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羽ばたく力を 16
「お、おい、瑠衣! 落ち着けって」
「ん……んっ……」
こんなに積極的な瑠衣は、滅多に拝めない。
長い睫を揺らしながら、俺の唇を奪っていく仕草が愛おしくて溜まらないよ。
君が求めるならば、俺も応戦するのみだ。
「アーサーぁ……」
瑠衣のキツく閉じた目から、突然ほろほろと透明の涙がこぼれ落ちた。
「ど、どうしたんだ? 少し変だぞ」
「……ベッドに連れて行ってくれないか」
ん? また珍しいな。
いつもは自分で行けると恥ずかしそうに抵抗するのに、今日は自ら俺の首に手を回して甘えてくる。
「分かった、上がろう。なっ」
「ん……」
どうも様子が変なので、抱き上げて風呂場から連れ出して、バスローブを羽織らせる。
「あっ……」
瑠衣は足に力は入らないようで、ぺたんと脱衣場の床に座り込んでしまった。
「おいで。暖かい部屋に行こう。桂人が綺麗にしてくれていていたし」
「違う……」
瑠衣がふるふると首を横に振る。
「あ、そうか。全部君がしてくれたんだね。シーツも取り替えて……」
「そうだよ。僕がした」
「ありがとう……さぁ俺に君の匂いをつけてくれよ」
再び、瑠衣を横抱きにしてベッドに連れて行く。
よし! 俺の術後の身体はすこぶる元気だ。
トレーナーを呼んで鍛えたお陰で、こんな風に何度でも君を軽々と持ち上げられるようになれて、嬉しいよ。
ベッドに瑠衣を横たわらせると、瑠衣が俺を呼ぶ。
「アーサー、君のお腹の傷痕を見せて」
その一言でピンと来た、
今日の君の様子が、変な理由を掴めたよ。
「……雪也くんの傷痕は、最初は見るのも辛いだろう。目を背けたくなるだろう」
「アーサー、どうして……」
「瑠衣が考えていることなら、全部分かるさ」
俺の心臓に、瑠衣の手を連れてくる。
「俺たち、こことこことが繋がっているからな」
「……うん」
瑠衣は少し身体をずらして、俺の腹の傷をじっと見つめた。
手術痕。
それは病気と闘った証し。
生きることを望んだ勲章だ。
だが……他人から見れば、やはり痛々しいものだ。
「だいぶ薄くなっただろう」
「本当だ……もう痛まない?」
「あぁ、少しも」
「良かった」
瑠衣が俺の手術痕に、そっと唇を這わせてくれる。
愛しいものに触れるように、優しく。
天使の羽で撫でられているようで、くすぐったい。
「瑠衣は白衣の天使のようだな」
「ん? 僕は看護師ではないよ?」
「俺の傷を癒やす天使だ」
「くすっ」
瑠衣はもう泣いていなかった。だが泣くと瞳が赤くなってしまう。それが白い兎のようで可愛くて、ギュッと抱きしめた。
「今日は……そんなに時間がないんだろう」
「ん……そろそろ病院に戻らないと」
「一緒に行こう」
「ごめんね。さっきは」
「雪也くんの傷痕も、日に日に良くなるよ」
雪也くんはまだ若い。治りも早いだろう。
「……そうだね。目立たなくなるといいな」
「そうだな、位置が位置だし。だがきっと手術痕ごと愛してくれる人ときっと出逢うよ。俺に瑠衣がいるように」
「あ……僕の考え、全部お見通しなんだね。やっぱり」
「あぁ、以心伝心だよ」
「流石……僕の君だ」
雪也くんの将来を、瑠衣は心配したのだろう。
傷痕を理由に馬鹿にされたり、雪也くん自ら……卑下してしまわないか。また将来の結婚に差し支えないか。
執事の瑠衣は、あらゆるパターンを想定する。
それが執事の務めだから当然だ。
「瑠衣、お見舞いに行こう。そして俺からも励ますよ。傷痕については雪也くんと同志だからな」
「ありがとう。だから……好き。アーサーが好き」
やっぱり舌っ足らずになる可愛い瑠衣。
さりげなく一生懸命俺に身体をこすりつけるのも可愛いな。
もっと君の匂いで俺を満たしてくれ。
お知らせ(不要な方はスルー)
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こんにちは。志生帆海です。
8月9日ハグの日でした。
可愛い瑠衣を引き続き書いてみました。
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