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羽ばたく力を 17
「海里!」
「なんだ? 二人揃って登場か」
午後の診察を終えて院内を歩いていると、背後から声をかけられた。
「ん……冬郷家に戻ったら、ちょうどアーサーも戻ってきて」
「そういうこと!」
「あ、アーサー、ちょっと近いよ」
瑠衣が頬を染めている。いつもツンと澄ました表情の瑠衣も、アーサーの近くではポーカーフェイスは無理のようだ。
瑠衣に寄り添うように横に立っているアーサーは、まるで瑠衣の騎士のように意気揚々として、瑠衣の匂いがプンプンだ。
だが墓穴を掘りそうだから、そこは絶対に突っ込まない。
すると瑠衣が珍しく悪戯に笑って、俺の耳元で囁いた。
「海里……アーサーは僕のモノだよ」
牽制するような言い方に、ビクッとしてしまったじゃないか。
こういう時の瑠衣は、恐ろしい。
「わ。悪かったな」
「ねぇ……海里は相変わらず、裸で眠っているの?」
「お、おい……静かにしろ」
そこではたと気がついた。
俺、昨日アーサーに、男なら寝間着を脱げと豪語したような?
『アーサーも寝る時は裸がいいぜ! 心も身体も解放されるから』
『そうなのか……いや、英国紳士たるもの。身だしなみは整えねば』
『ふぅん、つまらないな。お前は変な所で真面目だよな。だが一度裸で寝てみろよ。病みつきになるさ』
『そうかな?』
『ほら、脱げ脱げ!』
『いや、瑠衣に嫌われたくないから、よしておくよ』
昨夜……少しだけ寝酒を飲んだ。
疲れていた身体に心地よく酔いが周った。
頑なに寝間着を崩すことなく眠ったアーサーを夜這い(違う!)、寝間着を脱がしたのだ。
「いやぁ……俺とアーサーで、あのベッドは狭くてな、アーサーが随分寝汗をかいていたから……その風邪をひいたら良くないと……」
「やっぱり……(僕のアーサーを)脱がした犯人は君だね」
アーサーは、口を開けたままポカンとしている。助けてくれ!
「参ったな。アーサー、俺の弟はおっかないな」
「瑠衣は可愛いよ。それより海里ぃぃ。俺の裸が見たかったのか。そうか……俺のこの鍛え抜いた身体に興味があったんじゃないか」
アーサーの思考は斜め上を行く(おめでたい人間で実に微笑ましい)
「今日は瑠衣を何度も抱き上げたが、まだまだ余裕の体力だぜ!」
力こぶを見せて喜ぶアーサーの様子に、今度は瑠衣がポカンとしている。
そしてじわじわと頬を再び染め上げ、アーサーのコートをグイッと引っぱった。
「アーサー、も、もう行こうか」
「おう、雪也くんの見舞いに行ってくるよ」
「助かる!」
はぁぁ……助かった。
俺の弟……瑠衣は相変わらず可愛いな。
あの様子では……冬郷家でアーサーと会っただけではないな。
抱き合ってきたようだ。
そうでなかったら……あんなに移り香はしない。
お熱いことで、何よりだ。
君たちの仲の良さはポカポカで、きっと雪也くんにも活力になるだろう。
雪也くんに希望を、頼む。
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