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永遠の誓い 1

「もしもし?」 「柊一、俺だ」 「海里先生! 雪也はどうでしたか」  海里さんの声が明るい。ということは…… 「雪也くんなら、もうそっちに向かっているよ」 「では……無事退院できたのですね」 「あぁ、よく頑張ったよ。長い病から解放された」  視界が滲んでいく。じわじわと―― 「あ、あの、ありがとうございます。全部、海里さんのお陰です」 「いや、俺も柊一の支えがあったから頑張れた。柊一、君もお疲れさま」  電話越しに抱擁しあうような、熱い気持ちになった。  お父様とお母様が交通事故で亡くなられ……すぐに家が傾き、会社を整理し……この身体を売ろうとしたことも……そんな僕を救ってくれたのは……海里さんだ。  海里さんが僕を愛してくれると、世界は一変した。そして今回は……僕に残された大切な肉親、たった一人の弟の命を救ってくれた。 「柊一、今宵は覚悟しておけよ」 「はい、僕も同じ気持ちです」    海里さんに愛され、僕は真実の愛を知った。  満たされているんだ。心も身体も全て海里さんによって――  電話を横で聞いていた桂人さんも嬉しそうだ。 「柊一さん? 雪也さん、帰ってくるんですか、良かったですね」 「はい、無事に退院出来ました」 「良かった。じゃあおれ、ちょっと見て来ます!」 「え? 待って。どこへ?」 「今日は上へ行きたい気分なんです」  桂人さんも雪也の手術を……まるで自分のことのように心配してくれた。そして今、自分のことのように喜んでくれる。  ここは2階なのに、トンっと窓枠を蹴って軽快に木登りをし始めた。 「桂人さん、見えますか」 「あぁ、見晴らしがいい!」  ふふ、こういう時の 桂人さんはとてもイキイキしているな。やっぱり鳥のようで、大空が似合う人だ。 「桂人、お前、また! 危ないから降りろ!」  下からテツさんの声が鳴り響くのも恒例で、いつもの日常風景が心地良かった。雪也の入院中は……やはりどこかみんな緊張していたのだな。 「あ、見えましたよ! 瑠衣さんと雪也さんです」 「本当?」  僕も待ちきれず……階段を下りて正面玄関から飛び出した。  ゆき! 雪也……僕の可愛い弟! 「雪也ー! 退院おめでとう!」 「兄さまー、兄さまー!」  雪也が自分の足で立って、僕の方に歩いてくる。  ゆっくり、ゆっくり……  ゆきが、初めて歩き出した日を思い出す。 「ゆきー、ゆき、良かった」 「兄さま、ただいま!」    僕たちはギュッと絡まるように抱き合った。 「……柊一さま、お寒いですよ」 「瑠衣……ありがとう」  瑠衣が僕にコートを羽織らせてくれた。 「あ、駄目だ、瑠衣が寒いのに」 「大丈夫ですよ。私が、こうしたいのです」  瑠衣が優しく微笑むと、天からちらちらと粉雪が舞ってきた。 「あ……雪、雪だ」 「もしかして……」  僕と雪也と瑠衣は、丸い輪になって空を見上げた。    ……  雪也、退院おめでとう!  健康になって良かった。  恋をして……愛を知って、どうか長生きしてね。  …… 「お父様、お母様……僕、大人になれます! なれるんです!」  雪也が……空に向かって手を伸ばす。  心の限り叫ぶ。  その様子を、瑠衣と肩を並べて見守った。 「柊一さまもよく頑張りました。雪也さまをご両親亡き後、立派にお育てになりましたね」 「ありがとう。瑠衣……来てくれてありがとう。瑠衣が来てくれて心強かったよ」 「……これからも離れていても……心はお傍にいますからね」 「もう帰ってしまうの」 「はい、今宵」 「そう……」  分かってはいるけれども、少し寂しいな。 「柊一さま、空は繋がっています。きっとこの先もっと英国と日本は近くなります。アーサーが僕に贈ってくれた由比ヶ浜の実家の管理もあるので、また来ます。だからまた……きっとすぐに会えますよ」 「ありがとう……瑠衣が僕の家に来てくれて嬉しかった。僕の大好きな執事であって……親友だよ」  瑠衣が優しく微笑む。 「はい、その通りです」  粉雪を艶やかな髪に纏った瑠衣は、気高く美しかった。 「瑠衣、冷えるぞ」 「あ、アーサー!」 「さぁ、飛行機の時間だ」 「もうそんな時間なの?」  アーサーさんも合流し、暫しの別れを告げる。  だが……僕たちには明日があるから、また逢える。 「瑠衣、いってらっしゃい!」 「はい、また逢いましょう」  こんな明るい別れもいいね。瑠衣…… 「約束だよ、絶対にまた逢うから」 「楽しみにしています。薔薇の季節になったら、英国と日本で永遠の誓いを」  瑠衣の言葉を胸に、僕はまた歩み出す。  冬郷家を守り、海里さんとの愛を育み……雪也の療養を見守っていく。  

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