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永遠の誓い 2
「雪也さま、大丈夫ですか。タクシーに乗りましょう」
「ううん、瑠衣……僕、今日は電車で帰りたいな」
手術を控え、体調を整えるためにずっと家に籠もっていた。最近は病院へもいつも車を利用していたから、電車が恋しかった。
「でも……流石にまだ体調が万全なわけではないので……」
瑠衣は困惑したような表情を浮かべた。
「分かった。そうだね。確かにちょっと無理があったかも……」
「ではお屋敷の玄関で降りるのではなく、少し前で下車しましょう。そこから外の空気を吸って歩きましょうか」
「うん! そうしてみるよ」
僕は瑠衣の提案を、素直に受け入れた。
確かに退院したからといって万全ではない。このまま春先までしっかり自宅で療養して、新学期を迎えるのだから。
エスカレーター式の私学だから、休みがちでも何とか進学出来たことに感謝している。だから中学3年生の1年間は…今度こそ休むことなく通いたいんだ。
「雪也さま、ゆっくりじっくりですよ。どうか焦らないで下さい。その方が結果的には治りが早いし、良いですよ」
「うん、瑠衣の言うとおりだね」
「雪也さまは素直でよろしいですね」
「そうかな? じゃあアーサーさんは?」
「えっ?」
瑠衣が目を見開きギョッとする。
「ふふっ、アーサーさんはやんちゃだから、きっと瑠衣を沢山困らせたのでは?」
「あ、あの……私のことは……いいですから」
瑠衣が頬を染めるってことは、図星なんだね。
小さい頃……瑠衣はお母様みたいに優しいけれども、少しだけ遠い存在だった。
あれはいつだったかな? 僕が入院し瑠衣が泊まり込んでくれた時、夜中にふと目覚めると、瑠衣はカーテンの隙間から夜空を見上げていた。
月が瑠衣を照らし、そのまま消えてしまいそうだった。
かぐや姫みたいにどこかに行ってしまいそうで、僕は泣いて引き止めた。
その原因は英国と日本で別れてしまった恋人を思慕していたことを後に知り、納得したけれども。
「さ、さぁ……もう着きますよ」
「やったぁ!」
ピョンッっと車から飛び降りて少し走ってしまい、しまったと思った。
いつもなら怒られてしまう所だ。
『あぁ……駄目ですよ。そんなに走ってはいけません!』と、よく瑠衣に注意されたな。『寒いから外に出たら駄目だ。風邪を引いたら大変だろう』は、兄さまの口癖。
恐る恐る振り返ると、瑠衣が優しい眼差しで微笑んでくれていた。
いいの?
どうぞ。
心の中で促された。
まだ駆けるのは無理だけれど、自分の足で一歩一歩、しっかりと歩いた。
車椅子ともお別れだ!
「ゆき、雪也ー!」
兄さまだ! 兄さまがコートも着ずに、こちらに向かって息を切らせて走ってくる。
僕の帰りをずっと待っていてくださったのですね。
嬉しいです!
僕をいつも変わらずに愛して下さる兄さまが大好きです。
「雪也ー! 退院おめでとう!」
「兄さまー、兄さまー!」
僕も大声で呼んで、兄さまと抱き合った。
そして、報告した。
天上の世界にいらっしゃるお父様とお母様に……!
「お父様、お母様……僕、大人になれます! なれるんです!」
ずっと願っていたことが、ついに叶いました!
これからは兄さまをサポートできる人になりたいです。
そのためにしっかり勉強して体力もつけて……
うーんと、長生きしますからね!
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