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永遠の誓い 3

「瑠衣、もう行ってしまうの?」 「……はい。柊一さま」  一度部屋に戻り、トランクに荷物を詰めていると、柊一さまがいらした。  そのままトランクをじっと見つめ、寂しそうなお顔をされた。   「英国に行く瑠衣を見送るのは、もう何度目だろうね」 「……柊一さま、私は最初ここを旅立った時は、英国に骨を埋める覚悟でした。でもアーサーが白江さんのお宅の別荘を一棟丸ごと買い取り、僕に実家を作ってくれ……考えが変わったのですよ」  柊一さまの表情に明るい兆しが射し込んだので、安堵した。  別れるのは、僕も寂しい。  冬郷家の執事時代……雪也さまの病気はおかわいそうで辛かったが、ハートフルな日々だった。ご両親さまが、お二人のお子様に注がれる愛情が、羨ましいほど清らかだった。  僕の大好きな空間だった。 「瑠衣、また来てくれる?」 「はい、もちろんですよ。ここは私の祖国……私の大切な柊一さまと雪也さま。そして……私の大好きな兄、海里がいますからね」 「瑠衣……っ」  柊一さまが、泣きそうな顔で必死に笑って下さった。 「雪也のことを、長い間見守ってくれてありがとう。瑠衣の献身的な支えがなかったら。この日はこなかった」 「とんでもないです。柊一さまがお守りしたのですよ。手術前、術後どんなに雪也さまが心強かったか」  柊一さまの肩に手を載せると、ふわりと抱きついて下さった。 「瑠衣……僕は瑠衣と出逢えて良かったよ。来てくれてありがとう」 「はい、私もですよ。そうだ……これをご覧になって下さい」 「何?」  僕はスーツの内ポケットから、徐に懐中時計を取り出した。 「あ……これってお母様がお別れの日に渡したもの?」 「そうです。さぁ、開けて見て下さい」  柊一さまが不思議そうに時計を受け取る。  この時計は僕が渡英する時に、奥様からお餞別に頂いたものだ。  あの日……奥様から渡された懐中時計には……表には冬郷家の白薔薇の紋章が刻印されており、中には冬郷家の皆様のお写真が入っているのかと思ったのに、何もなかった。 『ここには、あなたの新しい人生の写真を入れてね』  奥様に、そうアドバイスされたのだ。 「あ……これって」 「はい、これは……僕にとっての家族写真です。ずっと見ております。英国から……見守っております」  昨年秋……みんなで冬郷家の前で撮った写真を入れていた。  雪也さまを中心にアーサーと僕、海里と柊一さま、テツと桂人。     一人ひとりの姿は小さいが、僕の大切な人が全員写っていた。 「離れていても、いつもここにいます」  

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