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永遠の誓い 6

「テツさん……テツさーん、どこだ?」  早朝、桂人と抱き合って眠っていたベッドを抜け出し白薔薇の手入れをしていると、必死な声がした。 「桂人、お前も起きたのか。早いな」  茂みから桂人が血相を変えて飛び出し、俺に飛びついて来た。 「一体、どうしたんだ?」 「あ、すまない」 「いや、嬉しいよ」  そこで我に返ったのか……気まずそうな顔で一歩退こうとしたので、細腰を抱き、引き寄せた。 「相変わらず冷たい身体だな。もう五月なのに、こんなに冷えて」 「……体温調整が上手くいかないんだ。おかしいな。さっきは寒かったが、今はとても暑いよ」 「暑そうだな、水を飲むか」 「あぁ」  桂人の細い顎を掴み上を向かせ、淡い唇を開かせる。  そこに水筒の水を流し込んでやると、桂人の喉仏が上下した。 「ん……? これ何だ? ほのかに薔薇の香りがする水だな」 「これは冬郷家の朝摘みの白薔薇をゆっくり丁寧に蒸留した俺の特製の薔薇水《ローズウォーター》だ。優雅な香りとコクがあっていいだろう。肌に潤いを与えるし、浄化作用もある。水に落とせばリフレッシュウォーターになるんだ」 「ふぅん? テツさんはすごい……色々な物を作りだすんだな」 「桂人には、長生きして欲しい」  桂人がギクリとした顔をする。 桂人の考えは、お見通しだ。  長い間、人間の限界を超えた幽閉生活は、桂人の寿命を縮めたと思っているのだろう。お前の予知能力など……超人的な部分も生身の人間の生をすり減らしていると勝手に思い込んでいるようだ。  そんなの許さない。俺がずっとずっと長生きさせてやる。  俺の手であらゆる手段を使って、桂人の身体を整えていく。 「これ、美味しいな」 「そうか、じゃあ次は背中を見せてみろ」 「えっ、ここで?」 「恥ずかしいのか。俺しかいないのに」  わざと煽るように言うと、桂人がスッと作務衣の紐を解いた。  潔い良い桂人、格好いいよ。  男のくせに、白くきめ細やかな肌。  ぞくりと粟立つほど、官能的な背中だ。  そこに降る惨い鞭跡。  背中に……俺の手で人肌に戻した薔薇水を染み込ませてやる。  こんなことは気休めで、根本的な治療にはならないと分かっていても諦められない。少しでもつけられた傷を消してやりたい。 「おっと、失礼!」  その時、茂みの向こうから声がした。 「なんだ、海里さんですか」 「あぁ、お前達はそこで何をしている?」 「……桂人の背に薔薇水を塗っていました」 「あ……傷痕にか 確かに傷痕の修復には、水分保持、抗炎症、血行促進作用のあるものが効果的だが」 「そうなんですね!」  桂人が恥ずかしそうに、作務衣を着込んでいく。 「ちょっと待て。桂人……医師として君の背中を診察させてくれ」 「海里さん?」 「いや……俺は外科医だろう。雪也くんも手術痕をとても気にしていたし……桂人、お前もそうだろう。何か俺に出来ることがあるのではと思ってな」 「なるほど。私も薬草などでいろいろ試しているところです」  そこまで話すと、海里さんが甘く微笑んだ。  本当に薔薇の国の王子のような端正な顔立ちだ。 「俺とテツの力を合わせれば、夢が叶うかもな」 「なるほど」 「とりあえず、テツ。その薔薇水をクリーム状にして保湿効果を高めてみてはどうだ?」 「いい考えですね。やってみます。じゃあ、海里さんにはお礼を」  俺は朝咲きの大輪の白薔薇を摘んで、海里さんに差し出した。 「あなたの大切な姫のお目覚めに……どうぞ、甘やかな白薔薇を」 「フッ、俺が寝室を抜け出して来た理由が、お見通しか」 「えぇ、手に取るように」      

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