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永遠の誓い 8
「柊一、支度は出来た?」
「あ、あの……どんな服を着ていけばいいでしょうか」
柊一がなかなか衣装部屋から出てこないので声をかけると、困り果てた声が返ってきた。
こんな時は瑠衣がいれば……よいアドバイスをしてくれるのだろか。いや、こんな時こそ、俺の出番ではないか。
「入っていいか」
「あ……あの、僕……下着姿なんです」
おいおい、俺たちは裸で抱き合う仲なのに……何を今更。そんな風に恥ずかしがられると、俺も恥ずかしくなるではないか。
「大丈夫、目を閉じて……では、見えないな」
「くすっ、海里さんは時々面白いことを仰いますよね」
「酷いな、真剣なのに」
「ごめんなさい。あの、選んでいただけますか。僕……海里さんの選んだ服を着てみたいです」
「いいよ。喜んで」
柊一の恥じらい、謙虚なところ、俺を全面的に甘えて頼ってくるところ、全部、大好きだ。
「では、これとこれにしようか」
「はい!」
相変わらず華奢な身体だ。もう少し太らせたいな。
これでは雪也くんに背も体格も超される日が近そうだ。
結局俺は、柊一に品の良いマロン色のパンツ、ミルクティーのようなカシミアのセーターを着せた。
「うん、美味しそうだな」
「え?」
「あ……違った。よく似合っているよ」
「ふふっ、ありがとうございます」
玄関に下りると、桂人がコートとマフラーを持って立っていた。
「お出かけですか」
「うん。銀座に行ってくるよ」
「今日は寒いので、テツさんが車で送ります」
「そうだな。そうしてもらおうか」
「呼んで来ますよ」
桂人はコートとマフラーを俺に預けて、飛んでいってしまった。
おいおい、本当はこれを着せるのは君の役目だぞ?
「あの自分で着られますので」
「いや、俺が」
柊一には上品な色が似合う。となると、誂える燕尾服も白がいいかもしれない。うん、白にしよう。白薔薇の結婚式にふさわしいだろう。
結局、テツに銀座まで自家用車で送ってもらった。
今日は柊一にどこまでも夢を見てもらいたい。最高のエスコートをしたいのだ。
「テツ、悪いが歌舞伎座で降ろしてくれ」
「いいですよ」
「ありがとう」
テツには迎えも頼んだ。庭師の仕事以外にあれこれ頼んで悪いな。桂人に早く運転免許を取ってもらいたいが、まだ読み書きが覚束ないので厳しいのだよ。
「あの……海里さん、どうして歌舞伎座に? 今日は観ませんよね?」
「しっ、隠れて」
「え?」
俺は柊一の手を掴んで、看板の陰に隠れた。
「あの……探偵みたいです」
「はは、そうだな。ほら、来たよ」
「え……」
わらわらと黒い学生服の男子学生集団がやってきた。
「この中に、雪也くんがいるはずだ」
「あ……そうでした。今日はここで芸術鑑賞でしたね。どこにいるのかな?」
俺たちは目を皿のようにして、人混みの中を見つめた。
「あ……あそこに、ゆき、雪也です!」
やはり兄である柊一の方が先に見つけたようだ。雪也くんは頬を薔薇色に染めて、友人と朗らかに笑いあっていた。とてもくだけた様子で微笑ましかった。
雪也くんの中学校での様子を見る機会はないので、柊一は食い入るように見つめていた。
「ゆき……あんなに笑って……海里さんご覧下さい。雪也が楽しそうに笑っています。みんなと歩調も合わせられて……良かった」
じわじわと濡れていく瞳。
「海里さん、海里さんのおかげです。本当に……ありがとうございます」
柊一の瞳からこぼれたのは、嬉し涙だった。
あまりに綺麗な涙に、心を打たれた。
俺の愛する人は、清らかな心を持っている。
「柊一と出逢えて良かったよ」
銀座のど真ん中で、もっと大きな声で叫びたい気分だった。
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