416 / 505

永遠の誓い 8

「柊一、支度は出来た?」 「あ、あの……どんな服を着ていけばいいでしょうか」  柊一がなかなか衣装部屋から出てこないので声をかけると、困り果てた声が返ってきた。  こんな時は瑠衣がいれば……よいアドバイスをしてくれるのだろか。いや、こんな時こそ、俺の出番ではないか。 「入っていいか」 「あ……あの、僕……下着姿なんです」  おいおい、俺たちは裸で抱き合う仲なのに……何を今更。そんな風に恥ずかしがられると、俺も恥ずかしくなるではないか。 「大丈夫、目を閉じて……では、見えないな」 「くすっ、海里さんは時々面白いことを仰いますよね」 「酷いな、真剣なのに」 「ごめんなさい。あの、選んでいただけますか。僕……海里さんの選んだ服を着てみたいです」 「いいよ。喜んで」  柊一の恥じらい、謙虚なところ、俺を全面的に甘えて頼ってくるところ、全部、大好きだ。 「では、これとこれにしようか」 「はい!」  相変わらず華奢な身体だ。もう少し太らせたいな。  これでは雪也くんに背も体格も超される日が近そうだ。  結局俺は、柊一に品の良いマロン色のパンツ、ミルクティーのようなカシミアのセーターを着せた。   「うん、美味しそうだな」 「え?」 「あ……違った。よく似合っているよ」 「ふふっ、ありがとうございます」  玄関に下りると、桂人がコートとマフラーを持って立っていた。 「お出かけですか」 「うん。銀座に行ってくるよ」 「今日は寒いので、テツさんが車で送ります」 「そうだな。そうしてもらおうか」 「呼んで来ますよ」  桂人はコートとマフラーを俺に預けて、飛んでいってしまった。  おいおい、本当はこれを着せるのは君の役目だぞ? 「あの自分で着られますので」 「いや、俺が」  柊一には上品な色が似合う。となると、誂える燕尾服も白がいいかもしれない。うん、白にしよう。白薔薇の結婚式にふさわしいだろう。  結局、テツに銀座まで自家用車で送ってもらった。  今日は柊一にどこまでも夢を見てもらいたい。最高のエスコートをしたいのだ。 「テツ、悪いが歌舞伎座で降ろしてくれ」 「いいですよ」 「ありがとう」  テツには迎えも頼んだ。庭師の仕事以外にあれこれ頼んで悪いな。桂人に早く運転免許を取ってもらいたいが、まだ読み書きが覚束ないので厳しいのだよ。 「あの……海里さん、どうして歌舞伎座に? 今日は観ませんよね?」 「しっ、隠れて」 「え?」  俺は柊一の手を掴んで、看板の陰に隠れた。 「あの……探偵みたいです」 「はは、そうだな。ほら、来たよ」 「え……」  わらわらと黒い学生服の男子学生集団がやってきた。 「この中に、雪也くんがいるはずだ」 「あ……そうでした。今日はここで芸術鑑賞でしたね。どこにいるのかな?」  俺たちは目を皿のようにして、人混みの中を見つめた。 「あ……あそこに、ゆき、雪也です!」  やはり兄である柊一の方が先に見つけたようだ。雪也くんは頬を薔薇色に染めて、友人と朗らかに笑いあっていた。とてもくだけた様子で微笑ましかった。  雪也くんの中学校での様子を見る機会はないので、柊一は食い入るように見つめていた。 「ゆき……あんなに笑って……海里さんご覧下さい。雪也が楽しそうに笑っています。みんなと歩調も合わせられて……良かった」  じわじわと濡れていく瞳。 「海里さん、海里さんのおかげです。本当に……ありがとうございます」  柊一の瞳からこぼれたのは、嬉し涙だった。  あまりに綺麗な涙に、心を打たれた。  俺の愛する人は、清らかな心を持っている。 「柊一と出逢えて良かったよ」  銀座のど真ん中で、もっと大きな声で叫びたい気分だった。

ともだちにシェアしよう!