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永遠の誓い 17
朝起きて、布団の中でそっと自分の胸元を手で押さえる。
トクトクトク……
時計の秒針のように規則正しく力強く動く……心臓の音に安堵する。
もう大丈夫、僕は大人になれる。
時折、まだ夢を見ているような気持ちになる。
してはいけない……したくても出来ないことの方が多い人生だった。
しかし僕を封じていた鎖は解き放たれ、僕は僕の足で前に進んで行ける。
「天気はどうだろう?」
重たいカーテンを開き、窓を全開にした。
「わぁ……兄さま、白薔薇が満開ですよ。それに晴天です」
眼前の景色は、まるでおとぎ話の挿絵に出てくる庭園のようだった。
テツさんがこの屋敷に移り住み手入れしてくれたお陰で、白薔薇がまるでお父様やお母様がいらした時のように、大輪に咲き誇っていた。
「あぁ、とても綺麗です。さぁ、おとぎ話の続きを始めましょう」
今日は白薔薇が満開の庭で、僕の手術の成功と退院祝いと共に、兄さまと海里先生の結婚式をするのだ。
給仕を手伝ってくれるテツさんと桂人さん以外、参列者は僕だけだったが、少しも寂しくなかった。
僕の心臓は規則正しく動き出し、もう締め付けるような痛みはない。
そして大好きな兄さまはどこにも行かないで、ずっとこの洋館で暮らして下さる。それというのも海里先生がここに移り住んでくれたからだ。海里先生はご実家の問題を解決し、男らしく約束を果たして下さったのだ。
扉のノック音の後、ワゴンを押した桂人さんが部屋に入ってきた。
いつも兄さまたちの給仕のあと、僕の部屋にも紅茶を運んでくれる。
彼の入れる紅茶はもう真っ黒ではなく、澄んだ飴色だった。
「雪也さんおはようございます。もう起きていたんですか」
「桂人さん、おはようございます」
「ふっ、待ちきれない様子ですね」
「そうなんです。どんなにこの日が待ち遠しかったことか……本当は一年前にも結婚式を企画したんですよ。でもその時は兄さまってば、僕の手術が成功したら改めてと遠慮されてしまって、瑠衣とアーサーさんの結婚式だけをしたんです。だから余計に」
「柊一さんらしいですね」
そこまで話して、そう言えば一年前は桂人さんとまだ出会っていなかったことに気がついた。もうずっと前から一緒に暮らしているみたいなのに。
「おれはその頃……まだ社の中でした。たった一年でここまで環境が変わるなんて信じられない」
チュンチュン――
開け放った窓辺に鳥の鳴き声がしたので振り返ると、先日桂人さんが見つけたツバメが一羽遊びに来ていた。
「おはよう!」
紅茶を淹れ終えた桂人さんが窓辺に腕を差し出すと、安心した様子で桂人さんの手に乗った。
「ツバメって野鳥なのにそんなに懐くんですか。思い切って鳥かごで飼ったら……いや、ごめんなさい。違いますね。自由に羽ばたいてこそツバメです」
「あぁ、その通りだよ。雪也さんはよく分かっているな」
うわっ……桂人さんって硬質な色気があって、格好いい。
海里先生は華やかなかっこよさ。
テツさんは実直なかっこよさ。
兄さまは優しくて格好いい。
あぁ僕は、まだまだ格好いいにはほど遠いや。
今だって余計なことを言いそうになった。
新しい出逢いのために、もっと身体を鍛えて心を磨こう!
そうだ、今日が僕の新しい人生のスタートにしよう!
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