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永遠の誓い 18

 僕は衣装部屋で白いシャツに青いネクタイを締めながら、瑠衣の言葉を思い出していた。 …… サムシングニュー  何か新しいもの サムシングオールド 何か古いもの サムシングボロウ  何か借りたもの サムシングブルー  何か青いもの  『雪也さま、これは、この四つを結婚式に花嫁が身につけることで『幸福』が永遠に続くという言い伝え、つまりおまじないです。中でも『サムシングブルー』は、最近は参列者が身に着けることも多いそうです。だから……改まってお願いがあります』 ……  この青いネクタイは、瑠衣から『僕の想いを込めましたので、雪也さま、どうか当日して下さい』と託されたものだ。  鏡に映る青いネクタイに、アーサーさんの碧い瞳を思い出す。  瑠衣も今頃、英国でふたりだけの結婚式を挙げているはずだ。  瑠衣もどうか幸せになって……そしてまた会いたいよ。             「雪也さん、柊一さんの支度が調いましたよ。さぁ庭に行きましょう」 「はい、桂人さん!」  中庭にはちょうど一年前のように白いテーブルクロスを敷いた長方形の机が置かれ、その上には優雅なアフタヌーンティーセットが並んでいた。テツさんが摘んだ白薔薇の花が随所に置かれ、清らかな雰囲気で満ちていた。  やがて兄さまが海里先生の腕に掴まって、白薔薇のアーチを潜ってやってきた。  僕がお祝いを言う前に、兄さまが口を開く。兄さまらしいですね。 「雪也、手術の成功と退院、おめでとう!」 「あ、ありがとうございます。兄さまこそ、おめでとうございます」 「……ありがとう。だが、少し恥ずかしいね……お前に祝ってもらうのは」  兄さまもすっかり健康になり、以前のように清々しさの漂う姿に戻っていた。兄さまらしい凛とした姿がまた見られて、本当に良かった。  ずっと僕の憧れでもあった兄さまの晴れ姿を、目に焼き付けておこう。真っ白な燕尾服の胸元には美しく咲き誇る白薔薇が飾られ、兄さまが朗らかに笑うたびに、優美に揺れていた。  そんな幸せな光景に、ふと亡くなった両親を思い出した。  天国の父さまと母さまもきっと喜んでくださる。だって兄さまがこんなにも幸せそうに笑っているのだから。  父さま、母さま。兄さまのお相手はとても美丈夫な方で、本当にお似合いですよ。 「雪也くん退院おめでとう。これからも、よろしくな」 「海里先生のお陰です。手術の執刀ありがとうございました。僕は先生のお陰で大人になれます。それから先生もおめでとうございます。あの……その、弟として嬉しいです」  白っぽいタキシードが凛々しい海里先生によく似合っており、眩しかった。 「ありがとう。今日からは三人で仲良く白薔薇の洋館で暮らしていこう」 「もちろんです。あっ……でも僕はあと十年も経てば、きっと結婚して父親になっていますよ」 「え? もう決めた子でも? 知らなかったよ」 「え? あ、あの……違います。でも昔……母さまと約束したんです。僕はいつか父親になってこの家を次の世に繋いでいこうと思います、だから……」  ふたりは世間の柵を気にすることなく、いつまでも仲良く愛し合って下さい。言葉には出さないけれど、そう願っています。 「雪也……お前はそんなことまで考えて。いつの間に、しっかりして」  そんな僕を、海里先生の隣に立っていた兄さまがふわりと抱きしめてくれた。兄さまから白薔薇の香りが届けられると、幼い頃のことを思い出した。 『にーたま、にーたま、ごほんよんで』 『いいよ、ゆき、おいで』 『にーたま、だいちゅき』 『ふふ、ゆきは可愛いね。僕も大好きだよ。ずっと一緒にいようね。じゃあ昨日の続きから読んであげるね』 『あい! わくわくしましゅね』    兄さまに読んで欲しいとねだった外国の絵本の内容を……幸せな結末に満足した日々を。 「兄さま、いつかまたおとぎ話を聞かせて下さい。兄さまたちが紡ぐ物語を聞きたいです。僕……海里先生も兄さまも永遠に大好きです」 「もちろんだよ。いつか雪也の子供にも、その孫にも話してあげよう。まるでおとぎ話のような僕と海里先生の物語をね。そのためにも僕たちは精一杯生きていくよ」  そこまでは僕の頭の中で描いていた通りに進んだ。  だがその後……急に寂しくなって、突然子供みたいに泣きじゃくってしまった。 「ううっ、にーさま、にーさま……どこにもいかないで、ぐすっ」 「あぁ雪也、誓うよ。ずっとゆきの傍にいるからね。大丈夫、大丈夫だよ。僕がいるから……」  すると、小さい頃のように、兄さまがとびっきり優しい笑顔で抱きしめてくれる。お父様もお母様もいなくなってしまったけれども、この優しい兄だけはいつも僕の傍にいてくれる。 「にーさま、ずっと……だいすきです」 「ゆき、僕も大好きだよ」  

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