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永遠の誓い 19
六月十日。
今日は俺の誕生日だ。
こんなにも自分の生まれた日が待ち遠しかったことはない。
まだスヤスヤと眠る柊一を残して、まずは普段着で庭に降りた。
梅雨入り前の爽やかな陽気の中庭には、白薔薇の芳しい香りが広がっていた。
「テツのお陰だな、今年、白薔薇がこんなにも美しく咲いたのは」
「あれ? また海里さんですか。驚いたな。今日は結婚式で忙しいのに、こんな朝早くからいらっしゃるとは」
脚立を担いで庭小屋からやってきたのは、テツだった。
「おはよう、テツ! もう作業か。悪いな、あれこれ注文をつけて」
「いいえ、大丈夫ですよ。英国式の|庭園結婚式《Garden Wedding》だなんて、庭師にとってやり甲斐のある内容でした」
テツはアーサーから送られた写真を胸ポケットから出して、ニヤリと笑った。
「アーサーの奴、同じ日に結婚式を挙げようと、こんな写真まで送ってきて」
「お互い、参列出来ないので、せめて似たような場所で挙げたいのでしょうね」
「あぁ庭園結婚式とは、開放感があってアットホームで自由なんだな」
「俺も好きですよ。このスタイル」
英国から届いた写真に忠実に、白薔薇の咲き誇る中庭に園遊会用のテーブルを設置し、ウェディングベルを東屋のアーチに取り付けてあった。
「白薔薇が満開だな」
「えぇ、良い感じに咲きましたよ」
「テツ……改めて礼を言うよ。森宮家を出て冬郷家に来てくれてありがとう。テツと桂人がいるから、安心できるよ」
「ふっ、俺たちもここが好きですよ。桂人もここが気に入っています。桂人はこの家でないと務まりませんよ」
あの朴訥としたテツがうっすら頬を染めて言うのだから、よほど桂人に惚れているらしい。そうでなくてはな。俺も柊一を溺愛し、テツは桂人を溺愛している。それでいい!
「さぁ、海里さん、そろそろ桂人が紅茶を部屋に持って行くようですよ。一度お戻りになって、眠り姫のお傍にお控えください」
「ふっ、柊一はテツから見ても姫なんだな」
「あ、待って下さい。これを」
テツが一輪の白薔薇を渡してくれた。
「これは……テツがくれた新しい品種の白薔薇だったな」
「えぇ、『柊雪《しゅうせつ》』と名付けたと。今朝一番美しく咲いたものをどうぞ。結婚衣装の胸ポケットにどうぞ」
「ありがとう」
「俺はもう一仕事あるので」
「あぁ、頼むよ」
一輪の『柊雪』を持って俺は部屋に戻った。
会場の準備は順調だ。
今日はきっと何もかも上手くいく!
そんな明るい予感に包まれた誕生日の朝だった。
****
きっともうすぐ、戻っていらっしゃる。
ほんの少し前に目覚めた僕は、海里さんから声をかけられるのを布団の中で待っていた。
彼は、毎朝、僕を『|眠り姫《Sleeping Beauty》』のように丁寧に扱い……僕が目を閉じたままでいると、顎を掴んでそっと口づけして下さる。
今朝も、海里さんの甘いキスが欲しくて――
「柊一、朝だよ。おはよう! おはようのキスをしてあげよう」
僕はこの瞬間、とても幸せな心地になる!
だからいつも……寝たふりをしてしまうのです。
こんな僕は、いけない子でしょうか。
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