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永遠の誓い 20
「海里さん、おはようございます」
「おはよう、柊一、もっと欲しい?」
「あ……あの、後でまた」
「そうだね。結婚式で誓いのキスをしよう」
「え……? そ、そっ……そんな、皆の前で……雪也もいるのに……駄目です」
狼狽し、しどろもどろになっていく柊一が可愛くて、つい意地悪くしたくなる。あぁ……どうして私の愛しい人は、こんなに愛らしいのか。
「だが誓いのキスは神聖なものだよ?」
「う……はい。分かりました」
覚悟を決めたように頷く様子に、少し可哀想な気分になったよ。
「じゃあベールに隠れてしようか」
「ベール! いえ、そんな……あれは女性がするもので」
「去年のことを忘れたのかい? 瑠衣がベールに包まれて美しかっただろう」
「で、でも……僕は瑠衣のような艶めきはなく、いつまで経っても……子供みたいで」
「それが柊一の魅力だよ」
「う……海里さんは……狡いです」
「どうして?」
「僕を褒めすぎです」
真っ赤になった柊一は、俺をすり抜けようとするので、細い腕を掴んで引き止めた。
「まだ着替えなくていいよ。パジャマのまま朝食を取ろう」
「え……ですが」
「燕尾服を、汚してしまうだろう」
「あ、はい」
すぐに桂人がモーニングティーを載せたトレーを持ってやってきた。
「桂人、今日は朝食をここで食べてもいいかな?」
「えぇ、もう、そのように準備していますよ」
「へぇ、気が利くな」
「今日の段取りは……瑠衣さんが全部教えてくれました」
「瑠衣の奴、気が利くな」
食の細い柊一のために、アフタヌーンティーによく登場するフィンガーサンドイッチを用意してくれていたのでも嬉しかった。
「あ、このサンドイッチ……大好きです。しかもくるみとクリームチーズのだなんて……! 桂人さん、どうやって作ったのですか」
「瑠衣さん直伝ですよ。ボウルに柔らかくしたクリームチーズとローストし刻んだ胡桃と微塵切りのパセリ、刻んだ玉ねぎとレモン汁、更に……ナツメグ、塩、胡椒を入れ混ぜたものをサンドしています」
へぇ、桂人も随分執事業が板について来たな。
「いただきます。あ……美味しい! また是非作って下さいね」
柊一と瑠衣の深い繋がり、それを素直に引き続いてくれる桂人の存在。どれもこの冬郷家に欠かせないな。
「どれ? うん、よく出来ているな」
「あ……ありがとうございます」
桂人が少し照れ臭そうに微笑むと、その笑顔に向こうに瑠衣の嬉しそうな顔を見つけた。
「あの、実は……瑠衣さんから結婚式の朝、読んで欲しいと手紙を預かっていました」
「瑠衣から?」
白い封筒には、薔薇の模様がエンボス加工されていた。
そして、手紙の他に白いハンカチが入っていた。
……
柊一さま、海里。
とうとう結婚式当日ですね。
本当におめでとうございます。
僕が二十歳の時に出逢った柊一さまは、賢く優しく美しいお子様でした。
僕はずっと柊一さまのご成長を、傍で見守って来ました。
雨の日も風の日も雪の日も……柊一さまはお父様との誓いを胸に気高く頑張って来られました。
何度も言いますが、そんな柊一さまが出逢ったのが、僕の兄、海里だったのが心から嬉しいです。
海里になら、僕の大切な柊一さまを預けられます。
柊一さまなら、僕の大切な兄を任せられます。
お二人に……神のご加護が末永くありますように。
お幸せに――
英国の地から祈りを込めて贈るのは『サムシングオールド 何か古いもの』
です。
これは柊一さまがお小さい頃持っていたハンカチで、柊《ひいらぎ》の文字とモチーフ刺繍はお母様のお手製です。
シミが付いてしまったのでもう処分するように言われたのですが、どうしても捨てられませんでした。
綺麗にしみ抜きしたので、晴れの日の縁起担ぎとしてお持ち下さい。
幸せがやってきますよ。
参列できないのが残念なので、日本でアーサーと撮った写真を同封します。
瑠衣より
****
ハンカチを開くと、角に柊の名前と柊《ひいらぎ》の葉の刺繍があった。
柊一はそれを指でそっとなぞり……静かに涙した。
そして瑠衣とアーサーが白い洋館の前で撮った写真を見つめては、優しく微笑んだ。
彼らはいつものように執事服とスーツではなく、瑠衣は淡い水色の、アーサーは目が覚めるような青いシャツだった。
貴重なカラー写真。
貴重な彼らのオフショット。
「さぁ着替えておいで」
「はい!」
真っ白なあつらえたばかりの白い燕尾服はウェディングドレスのように気高く、柊一を飾っていた。
「いいね、よく似合う……とても綺麗だ」
俺も着替え、10時になってから二人で階段を下りた。
「俺の腕に掴まって」
「はい」
中庭に庭園結婚式の会場へ、歩み出した。
青い空、緑の芝生。
白薔薇の咲き誇るGarden。
そよぐ風。
東屋には鐘が……!
まるでおとぎ話の世界。
おとぎの国の庭園だ、ここは!
さぁ、白薔薇のアーチを潜ろう。
みんな待っている。
見守ってくれている。
俺らをずっと応援してくれた人達が……
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