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永遠の誓い 22

 中庭の一歩奥、秘密の庭園には、テツさんと桂人さんが一年かけて修復した東屋風のチャペルがあった。  大きな鐘《wedding bells》は、かつてこの庭園内にあった小さな教会から受け継がれたものだ。  僕と海里さんは、鐘の前で向かい合った。  列席者は、僕の最愛の弟、雪也と、住み込みで庭師の仕事をして下さっている信頼できるテツさんと、瑠衣の従兄弟の桂人さん。  そして……僕らの歴史を見守って下さった温かな存在の気配も感じている。 「柊一さん、私もここから見守っているわ!」  向かいのお屋敷の窓際から、声がした。見上げるとまだ幼い双子を抱っこした白江さんが立っていた。   「白江さん!」 「これを貸してあげるわ。『サムシングボロー 何か借りたもの』よ。瑠衣さんから頼まれていたの」 「え? 瑠衣が……」  瑠衣……いつの間に、こんな洒落た段取りをしていてくれたのか。  白江さんは白い袋に入ったものを思いっきり投げ、海里先生が見事にキャッチした。 「白江さん、ありがとう! お借りするよ」 「幼馴染みの柊一さんのためですもの! どうぞお幸せに」  中身はなんだろう? 「柊一、俺からは『サムシングニュー何か新しいもの』だ。白い燕尾服一式は新しい贈り物だよ」 「あ……」 「瑠衣があれこれ手配したがっていたので、俺は真っ先に『サムシングニュー』を選んだよ」 「嬉しいです」 「さぁ、始めようか」  結婚式と言ってもこれは内輪のもので、神父さまも牧師さまもいらっしゃらない。男同士の僕たちが、皆の前で宣言するスタイルだ。  さぁ……お父様とお母様が愛した白薔薇の見守る中、厳かな式を始めよう。  僕たちは二人で相談して、身近な言葉で結婚を宣言することにした。 「俺はご列席下さった方々の前で、俺は柊一と生涯を添い遂げる誓いを致します。柊一を生涯の伴侶として、どんなに仕事が忙しくても、ふたりの時間や記念日を大切にすることを誓います」  海里さんが僕と手を繋いで、雪也とテツさん、桂人さん……そして姿は見えないが僕達をずっと応援してくれた人々の前で、温かい誓いの言葉を述べた。  だから……僕も続く。   「僕は海里さんを生涯の伴侶とし、どんな時でも笑顔を忘れずに、どんな時でも感謝の気持ちを忘れないことを誓います」  続いて声を揃えて……   「私たちは、これからなんでもふたりで話し合い協力し合い、笑顔溢れる明るく優しい家庭を築いていくことを誓います。六月十日 森宮海里、冬郷柊一」    ふわりと僕の頭に白いレースのベールが被せられた。 「え……」 「恥ずかしがり屋の君のために、白江さんに借りたんだよ」 「あ……それで、さっき」 「さぁ、もう一度改めて指輪を交換しよう」 「は、はい――」  リングピローに置いた指輪。  去年いただいたものだが、この指輪には魔法が宿っていると信じている。 「よく似合うよ」 「海里さんにもおつけします」  続いて結婚誓約書にサインをする。手が震える……! 「誓いのキスを――」    僕は淡い日差しの中……レースの中で海里さんからの愛を受け入れた。 「わぁ! 海里先生、兄さま、おめでとうございます」  雪也からの祝福に続いて、テツさんと桂人さんからも祝福の言葉が届く。 「海里さん、柊一さんおめでとうございます」  お向かいの窓から、白江さんの歓喜の声も…… 「おめでとう! 海里先生と柊一さん、あなた達とっても素敵よ」  あぁ……ちゃんと祝福されている。  一番近くの人が受け入れて下さる。  もうそれだけで幸せだ。 「兄さま、僕からのお祝いです」 「雪也? いつの間に……どうして制服を」 「エヘン、今から兄さまへの応援歌を歌います」 「えぇ?」 「えっと、応援歌は『ひまわりのやくそく』という曲です」  雪也の歌声は、力強かった。  こんなに大きな声で歌えるなんて……  そして歌詞に泣いた。  僕を兄として慕って、愛してくれる可愛い弟の清らかな歌声は、嬉し涙を誘うよ。 「柊一、歌はいいな。心をメロディに乗せて素直に伝えられる」 「はい……そう思います」 「俺からもあるんだだ」 「え……」 「今宵……耳元で聴かせてあげる」 「は、はい」  急に胸の鼓動が大きくなった。夜を期待してしまう……甘い夜を。 「さぁ、これにてお開きだ」 「あっ!」  いきなり横抱きにされたので、驚いた。 「さぁ、一緒に皆からのフラワーシャワーを浴びよう。花の香りでお清めし、悪いものを跳ね除ける意味があるんだよ」  僕と海里さんが歩む道には、白薔薇の花が舞っていた。  森の精霊たちの力が働いているのか、白い花びらが雪のように舞い積もっていく。 「兄さまー! おめでとうございます!」 「おめでとうございます!」  僕……幸せだ。  僕……生きていて良かった。  僕……まるでおとぎ話の主人公みたいだ。  逞しい王子様に抱かれ、祝福の花を浴びている。 「海里さん……まるでおとぎ話のようですね」 「あぁ、柊一の夢はいつも叶うよ。俺が叶えてあげるから、俺について来てくれ」 「はい、どんな時も……あなたと一緒です」                        happy ending……☆ あとがき(不要な方はスルーです) **** この話にて、『まるでおとぎ話』は二度目の完結を迎えます。 ここまで読んで下さって、ありがとうございます。 一緒にお祝いをして下さった皆様ありがとうございます!  今宵……海里さんがベッドで歌う曲は、創作HPのブログにて明かしています。エブリスタプロフィールページにリンクあり。https://estar.jp/users/159459565 この続きのお話しは、『鎮守の森』https://estar.jp/novels/25788972にて長々と書いています。 ちょうどテツと桂人が冬郷家に来て1年後の話です。この結婚式を迎えた年の秋の話になります。桂人の里帰りから始まり、まるでおとぎ話らしくオールスターで、特に雪也メインの話になっていきますので、未読の方がいらしたらぜひ https://estar.jp/novels/25788972/viewer?page=72 他サイトのことばかりですみません。 まだまだ『まるでおとぎ話ワールドは続きます。 絶対に雪也の結婚は見届けたいし、雪也が父になるシーンもスター特典で少し明かしていますがしっかり書きたいし……海里さんと柊一のその後の生活も気になりますよね。なので、またの再開の日までお待ちくださいね。

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