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完結後のおまけSS『花束』

 フラワーシャーワーを浴びたあと、記念撮影をした。 「兄さま! 写真を撮ってもらいましょうよ」 「そうだね。桂人さん、お願いできますか」 「はい」  お父様の愛用されていた一眼レフのカメラを渡し、雪也と僕たちの三人で写真に収まった。  それからセルフタイマーにし、テツさんと桂人さんとも一緒に撮った。  すると……白江さんが双子を連れて屋敷にやってきた。 「柊一さん~ もう我慢できないわ。私にもお祝いをさせて」 「白江さん……照れるよ」 「何を言っているの? 私達は、おむつの頃からの友達でしょ」 「そ、それは……」 「柊一さん、花嫁さんにはブーケが必要でしょう。作ってきたのよ」  白江さんに、強引に白薔薇のラウンドブーケを持たされた。 「あ、ありがとう。綺麗だね」 「んふふ、柊一さんの家の薔薇を拝借したのよ。さぁ私も写真に入れて頂戴」  最後は白江さんと双子の娘さんも一緒に入り、とても賑やかな写真になった。 「あ、そうだわ。柊一さんはブーケトスをしないと」 「それは、何?」 「『花嫁の幸せを分けてもらえる』と最近人気なイベントよ。さぁ後を向いてブーケを投げて! 投げられたブーケをキャッチした人は、次に結婚をすることができるのよ」  僕たちの幸せを、皆におすそ分け出来るのか。 「あ、あの……海里さん、やってみてもいいですか」 「もちろんだよ」  後を向いて……ブーケを空高く投げる。 「あっ!」 「えっ……!」  見事にキャッチしたのは……なんと執事服を着た桂人さんだった。  弧を描くようにして白薔薇のブーケは、桂人さんの手元に吸い込まれた。 「え? お、おれ……ですか」  桂人さんはみるみる顔を赤くした。テツさんは最高の笑顔だ。  確かにこの二人が一番近いだろう。  桂人さんが白薔薇を持つと、楚々とした雰囲気が際立ち、美しかった。  テツさんもそんな桂人さんに見蕩れている。  二人には、もっともっと幸せになってもらいたい。  ずっと冬郷家にいて欲しい。 **** 「お、降ろしてくださいっ、もう」 「ふっ、柊一、落ち着いて。花嫁はお静かに」 「も、もうっ」  僕は海里さんの腕にギュッとしがみついてしまった。 「可愛いね。甘えてくれるのかい?」 「こ、これは……あ、あの……ですね。階段から落ちそうだから……しがみついてしまうのです」 「ふっ、君は相変わらず慎ましいね」 「海里さん、僕、一年前とあまり変わっていませんか。 少しは大人っぽく振る舞えていませんか」  海里さんを見上げると、優しく微笑んで下さった。 「柊一は柊一のままがいいんだ。生涯そのままでいてくれ」  僕は僕のままでいていい?    それはずっと……僕が待ち望んでいた、欲しかった言葉だ。  おとぎ話が好きな当主でもいいと言って貰っているようで嬉しかった。 「海里さん……瑠衣も今頃、英国で幸せに微笑んでいるでしょうか」 「そうだな。向こうとは時差があってマイナス8時間だから、今頃は夜明けだろう」 「夜明けですか。いい言葉ですね」  いつか英国の夜明けも見たい。  僕も瑠衣の住んでいる世界を見てみたい。 「あぁ……俺も好きだよ。どんなに辛いことがあっても、必ず夜明けはやってくるからね」 「僕にとって『夜明け』とは海里さんそのものです。『希望の灯台』のように辺りを照らし、苦難の道を歩んでいた僕を見つけてくれました」  あの日から……海里さんは、いつも僕の北極星《Polaris》です。

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