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 大きな翼 1

久しぶりに『まるでおとぎ話』本編を更新します。 優雅なお話しになれば…… どうぞゆったりとした気持ちでお楽しみください。 **** 「海里さん、明けましておめでとうございます」 「柊一、Looking forward to another fun year with my one and only.」 (最愛の君と過ごす新たな一年を、楽しみにしているよ)    海里先生の流暢な英語の台詞はロマンチックで胸が高鳴る。  僕は新年早々、言葉の魔法にかかったように、うっとりしてしまった。すぐに気の利いた台詞を返せないのは、僕の経験値が低いからなのか。 「あ、あの……僕もです」 「嬉しいよ。さぁ、そろそろおせち料理を食べようか」 「あ、はい。雪也を呼んできますね。あっ……」    しまった! そこまで口に出し、僕は後悔した。 「あ……そうだ。雪也はロンドンでしたね」 「……柊一」  海里先生が、そんな僕を背後から抱きしめてくれる。  ここは冬郷家のサンルーム。  外は霜が降りる程の冷気なのに、中は暖房が良く効いてポカポカだ。更に海里さんに包まれると、僕の体温は上昇していく。 「All I want to do this year is spend more time with you.」 (俺が今年したいのは、柊一ともっと一緒に過ごしたいことだけだよ) 「海里さん……すみません。まだ雪也がいないことに慣れなくて……いつも新年には僕からお年玉を……あぁ、今年は渡せないんですね」  会いたい……  生まれた時からずっと傍にいた雪也がいないのは、やはり寂しい。  英国留学は雪也が選んだ道だから応援しないといけないのに、僕は兄失格だ。 「柊一、浮かない顔だな。まるで君がホームシックのようだよ」  海里さんにはもう隠せない。  こんな寂しい心も……全部見せてしまうんだ。 「うっ……すみません。あの子にお年玉を渡したかったので、つい……」 「……そうだな。そうだ、君に渡したいものがあるんだ」 「?」  海里先生が僕の手を引いてエスコートして下さる。 「あの、何でしょう?」 「シャンパンで乾杯してからだよ」 「はい」  階段をふわりとした心地で降り、食堂に行くと、執事の桂人さんが恭しく出迎えてくれた。 「柊一さん、海里さん、明けましておめでとうございます」 「うん、おめでとう」 「おめでとうございます。あの、テツさんは?」 「庭の手入れ中ですよ」 「こんなに寒いのに」 「ふっ、庭師はどんな季節でも庭師ですよ」  桂人さんは瑠衣に似た口調で、さらりと答えてくれた。  窓の外を見ると、テツさんが黙々と庭木の手入れをしていた。 「冬は椿が見頃なので、あとで少しお部屋に飾りましょう」 「椿ですか」 「ピンクの椿を持って来て欲しい」 「畏まりました」  桂人さんがテツさんにすぐに告げにいく。  桂人さんは本当に執事の仕事が板についてきて、安心できる。 「海里さん、あの……どうして椿を?」 「あぁ、君への贈り物に添えたいんだ」 「ですが、僕、クリスマスに上等なカシミアのマフラーを頂戴したばかりです」 「ふっ、君は冬郷家の当主なのに謙虚だな」  暫くするとテツさんが戻ってきた。 「海里さん、ご注文の花はこちらで?」 「あぁそうだ。ピンクの椿は優しいな」 「その通りです。花言葉は『控えめな美』『控えめな愛』ですよ」 「そうなのか、やはり謙虚な柊一にぴったりだな」  海里さんが胸元から封書を取り出し、ピンクの椿の花を添えて下さった。

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