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大きな翼 1
久しぶりに『まるでおとぎ話』本編を更新します。
優雅なお話しになれば……
どうぞゆったりとした気持ちでお楽しみください。
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「海里さん、明けましておめでとうございます」
「柊一、Looking forward to another fun year with my one and only.」
(最愛の君と過ごす新たな一年を、楽しみにしているよ)
海里先生の流暢な英語の台詞はロマンチックで胸が高鳴る。
僕は新年早々、言葉の魔法にかかったように、うっとりしてしまった。すぐに気の利いた台詞を返せないのは、僕の経験値が低いからなのか。
「あ、あの……僕もです」
「嬉しいよ。さぁ、そろそろおせち料理を食べようか」
「あ、はい。雪也を呼んできますね。あっ……」
しまった! そこまで口に出し、僕は後悔した。
「あ……そうだ。雪也はロンドンでしたね」
「……柊一」
海里先生が、そんな僕を背後から抱きしめてくれる。
ここは冬郷家のサンルーム。
外は霜が降りる程の冷気なのに、中は暖房が良く効いてポカポカだ。更に海里さんに包まれると、僕の体温は上昇していく。
「All I want to do this year is spend more time with you.」
(俺が今年したいのは、柊一ともっと一緒に過ごしたいことだけだよ)
「海里さん……すみません。まだ雪也がいないことに慣れなくて……いつも新年には僕からお年玉を……あぁ、今年は渡せないんですね」
会いたい……
生まれた時からずっと傍にいた雪也がいないのは、やはり寂しい。
英国留学は雪也が選んだ道だから応援しないといけないのに、僕は兄失格だ。
「柊一、浮かない顔だな。まるで君がホームシックのようだよ」
海里さんにはもう隠せない。
こんな寂しい心も……全部見せてしまうんだ。
「うっ……すみません。あの子にお年玉を渡したかったので、つい……」
「……そうだな。そうだ、君に渡したいものがあるんだ」
「?」
海里先生が僕の手を引いてエスコートして下さる。
「あの、何でしょう?」
「シャンパンで乾杯してからだよ」
「はい」
階段をふわりとした心地で降り、食堂に行くと、執事の桂人さんが恭しく出迎えてくれた。
「柊一さん、海里さん、明けましておめでとうございます」
「うん、おめでとう」
「おめでとうございます。あの、テツさんは?」
「庭の手入れ中ですよ」
「こんなに寒いのに」
「ふっ、庭師はどんな季節でも庭師ですよ」
桂人さんは瑠衣に似た口調で、さらりと答えてくれた。
窓の外を見ると、テツさんが黙々と庭木の手入れをしていた。
「冬は椿が見頃なので、あとで少しお部屋に飾りましょう」
「椿ですか」
「ピンクの椿を持って来て欲しい」
「畏まりました」
桂人さんがテツさんにすぐに告げにいく。
桂人さんは本当に執事の仕事が板についてきて、安心できる。
「海里さん、あの……どうして椿を?」
「あぁ、君への贈り物に添えたいんだ」
「ですが、僕、クリスマスに上等なカシミアのマフラーを頂戴したばかりです」
「ふっ、君は冬郷家の当主なのに謙虚だな」
暫くするとテツさんが戻ってきた。
「海里さん、ご注文の花はこちらで?」
「あぁそうだ。ピンクの椿は優しいな」
「その通りです。花言葉は『控えめな美』『控えめな愛』ですよ」
「そうなのか、やはり謙虚な柊一にぴったりだな」
海里さんが胸元から封書を取り出し、ピンクの椿の花を添えて下さった。
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