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大きな翼 6

「海里先生、お帰りなさい!」  テツと別れて本館に帰宅すると、柊一がパタパタと駆け寄って出迎えてくれた。  俺はこの瞬間が大好きだ。 「柊一、いよいよ明日、出発だな」 「はい、もう待ちきれないです」  今は柊一と俺だけで暮らしているので、玄関先で憚ることなく、思いっきり抱きしめてやれる。 「あれ?」  柊一が俺のコートに顔を埋めて、クンクンと匂いを嗅いでくる。  あぁ、子猫みたいな可愛さが溜まらない。 「どうした?」 「ふぅ、何かよい香りがしますね。海里さんにぴったりの」  柊一が目を閉じて俺の香りを堪能する様子が、愛くるしかった。 「君と俺のオーデコロンが出来たんだよ」 「テツさんに頼んでいたのが完成したのですね。あの、でも……海里さんの香りを僕がつけてもよろしいのですか。おかしくありませんか」    謙虚な様子で小首を傾げる様子に、また愛おしさが募った。  俺はもう柊一にメロメロだから、明日からの新婚旅行が待ちきれない。 「柊一にも香りを移してやろう」 「あっ」  白く細い首元を溜まらずに吸い上げると、柊一は恥ずかしそうに目元を染めた。その顔に煽られ、チュッときつく吸い上げてしまった。 「だ……駄目です……そこは、見えてしまいます」 「あぁ、すまない。つい……」 「あ……香りが変わりました?」 「そうだな。トップの次はミドル……つまり今度は君の香りだよ」 「え……っ」  トップノートは香水をつけてすぐに漂う強い香りで、揮発性が高いので持続時間はせいぜい10分〜20分程だ。次に香るのがミドルノートといい、香水のメインとなる。  俺のメインは、柊一だ。   「君に相応しい白薔薇の優しい香りだよ。さぁ、おいで。部屋に行こう」 「はい」  寛いだ服に着替えて戻ると、柊一は真面目な顔付きで、自分に移った香りを確かめていた。  「あの……これはまた変化するのですか」 「そうだよ。ミドルノートの後は、ラストノートだ。肌の上で互いの体温と混ざり合い、俺たちだけの香りが生まれるんだよ」    そう説明すると、柊一はあっという間に真っ赤になっていた。 「気に入った?」 「とても恥ずかしいです」 「くすっ、何もつけていなくても、君からはいい香りがするよ」 「それは……日中、テツさんにくっついて花の手入れをしているからでしょう」 「ふっ、君は相変わらず慎ましい」  **** 「瑠衣、どうしたんだ?」  柊一たちの到着を迎えるために、俺たちは早朝からロンドンへ移動する。  これから楽しい予定が詰まっているというのに、朝から瑠衣の機嫌がすこぶる悪い。衣装部屋で鏡を見て、むすっとしている。 「……僕があれほど駄目だって言ったのに……」  執事服をきっちり着こなした瑠衣が、自分の首元を指差して見せる。 「ん? あぁ、これか」  あぁ、まずい。昨日黒猫の耳をつけた瑠衣が可愛過ぎて、盛り上がり過ぎた。  首の、ワイシャツやジャケットで隠れない位置に、しっかりついているのは、俺のキスマーク。愛の証さ! 「呑気な返事だね。どうしよう? 困ったな」 「そんなの簡単さ。これを巻けばいい」  瑠衣の首元に桜色のストールをふわりと巻いてやり、綺麗なカタチの額にキスを落とした。 「大丈夫だ。これが隠してくれるよ」 「もう……執事服にストールだなんて」 「瑠衣は綺麗だ」 「も、もう――」    なんだかんだと瑠衣は俺に甘いので、最後は笑ってくれる。 「アーサー ありがとう」  そして、とても優しいのさ。  そんな君が大好きなのが、この俺だ。  

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