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大きな翼 10

「海里さん……僕……本当に飛行機に乗れるでしょうか」 空港のラウンジで、柊一の心を落ち着かせるために温かい紅茶を飲ませた。  ここはVIP用のラウンジなので、個室になっている。  柊一の離陸前の緊張を、少しでも緩和させてやりたい。   「大丈夫?」 「すみません、……不慣れすぎて」 「君が飛行機に乗ったことがないというのは……正直意外だった」 「あ……そうですね。雪也が飛行機には乗れない身体だったので、僕も……乗りたくなかったんです」  やはりそういう理由なのか。  そんな優しい君が好きだよ。 「じゃあ、雪也くんも初めてだったんだね」 「はい、心配していましたが、飛行機の中のでの様子を手紙でもらって安堵しました。雪は、僕が想像していたより、逞しいみたいですね」 「そうだね。雪也くんは案外度胸があるのかも」 「……実は……僕には……あまりないんです」 「人は皆、違う。柊一には柊一の良さがある。それを一番よく知っているのが、この俺だよ」  カタカタと紅茶を飲む柊一の手が震えていることに気付いた。   「柊一……」    そっと手を添えて、紅茶をソーサーに戻させ、彼の座っているソファに移動して、肩を抱き寄せてやった。 「海里さん、すみません」 「いいんだよ。俺に甘えてくれ」 「……お父様に常に凜々しくあれと言われたのに……あなたの傍にいると……駄目なんです」  馬鹿だなぁと思う。  そんな約束を律儀に守って……そんな柊一が好きだが、やせ我慢をすることはない。 「安心して。柊一はいつも凜々しいよ。だが人間には得手不得手がある。俺という伴侶を得たのなら、不得手な部分は曝け出し、頼ってくれると嬉しいが」  柊一が顔を上げたので、チュッと軽いキスで青ざめた唇を温めてやった。  それから、テツが機内に持ち込めるように準備してくれたオーデコロンの小瓶を取り出し、柊一の手首につけてやった。 「あ……海里さんの香りがします」 「落ち着く?」 「はい……とても」 「すぐに柊一の香りに変化するよ。とても控えめな香りで、上品に仕上がっている」    俺からのキスと淡い香りに、柊一の心も次第に落ち着いてきたようだ。  仕上げは…… 「柊一、ロンドンの空港には瑠衣が迎えに来てくれているよ」 「えっ、本当ですか」  瑠衣の話に、柊一の顔色がパーッと華やいだ。やれやれ、俺も負けていられないな。   「あぁ、俺が手配しておいた」 「海里さん……ありがとうございます。海里さんは本当に素晴らしいお方です。本当に嬉しいです」  そろそろ、大丈夫だな。 「さぁ、行こう」 「はい!」  さぁ行こう! 「俺たちにとって、これは『Honeymoon』だよ。楽しんで――」 「はい、ワクワクしてきました。海里さんと一緒なので安心です」 「そうか、良かったよ」 「あの……僕も……楽しんで……いいのですね?」 「当たり前だ。そのための旅行だよ」  飛行機は、成田空港から一路ロンドンへ飛び立つ。  俺たちは手を繋いで  鳥のように自由に――  大空を羽ばたいて行く。

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