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大きな翼 18
「瑠衣、この後の予定は?」
「アーサーのロンドンの家で、まずは少し休憩をして、それから市内観光に行きましょう」
「……そう」
柊一さまは、どこか物足りなさそうな様子だった。
「あの……ね」
「雪也さまのことですね」
「そうなんだ。あの……すぐに会えそうかな? あの子は日本へは戻らないと言ったが、僕が会いに来てはいけないとは言ってなかったよね?」
「はい、その通りです。ですから、これからお会い出来るように既に手配済みですよ」
「本当なの? あぁ……ゆきにもうすぐ会えるんだ……嬉しい」
柊一さまはご自身を抱きしめるような仕草をされた。
雪也さまのことを、早く抱きしめたくて溜まらないようだ。
思い返せば……本当に仲が良いご兄弟だった。清らかな天使のような兄弟に囲まれて過ごした冬郷家での執事時代。アーサーと会えない寂しさは、いつもお二人の笑顔に埋めてもらった。
ロンドンのグレイ侯爵家は、英国屈指の名門貴族なだけあって瀟洒な造りのお屋敷だ。繊細で優美な鉄格子の門扉を開けると、いささか緊張した。
僕がここを訪れるのは久しぶりだ。
ここはまだ二十歳だった僕が、アーサーと再会し、執事見習いとして過ごした思い出の場所だ。
もう懐かしさしか込み上げてこない。辛い過去は、離れの館が建て直された時に、すべて水に流したから。
welcome! please come in!
It’s great to see you.
Thanks for coming!
柊一さまは、自ら出迎えて下さった奥様に少しも臆することなく、背筋を伸ばして応対された。車中での、あどけなさは消え、冬郷家の当主として凜々しさを発揮されていた。
I’m so glad to meet you. I’m Syuichi Togo……
相手の目をしっかり見つめ、美しい所作で握手される様子を、僕は誇らしく見守った。
本当に、ご立派になられましたね。
「ルイ、ちょっといいか」
背後から呼ばれ振り返ると、アーサーの弟のノア様の姿があった。雪也さまをお迎えに行ってもらったはずだが、どこにも姿はなかった。
「あの……雪也さまは?」
「それが追試験の勉強で、今日は居残りだそうだ」
「え……」
「まだ留学して間もないから英語でかなり苦労しているようだ。今日は図書館に一人で勉強をしているそうだよ。どうしたらいいのか分からなくて一旦戻ってきたんだ」
「……そうでしたか」
せっかく柊一さまがいらしたのに……そんな。
僕が駆けつけて、分からない場所を教えて差し上げよう。そうすれば……
そう思い立った瞬間、柊一さまから声がかかった。
「瑠衣、僕を雪也の元へ連れて行ってくれないか」
ノアさまと小声で早口の英語で話していたが、全部筒抜けだったようだ。
「雪也は頑張っているんだね。僕は雪の近くで……応援したい。見守りたい。邪魔はしないから……お願いだ」
「畏まりました、今すぐにお連れします」
ご兄弟だからわかり合えることがあるのだ。
ここは、柊一さまにお任せしよう。
今の柊一さまになら、お任せ出来る。
海里に溺愛されて、柊一さまはご自身に自信をつけられた。
また一段と凜々しく美しい貴公子となられた。
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