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大きな翼 26
雪也さまをお風呂に入れるのは、冬郷家では僕の仕事だった。
同時に僕は柊一さまのお世話もよくした。
雪也さまが病弱で、お母様の手が柊一さまにまで回らなかったので、風邪で寝込まれた時に寝汗をかけば昼夜を問わず、お風呂で洗って差し上げた。
僕が長年お世話したお二人なので、今更、裸を見ても何の抵抗もない。
お二人にとって本当に近く深い部分にいたのだと改めて思った。
思い出に耽って仲睦まじい兄弟の再会を脱衣場の壁にもたれて見守っていると、突然矛先が向いたので驚いてしまった。
いざ「瑠衣も一緒に入ろう」と言われると、猛烈に恥ずかしい。
「わ、私は、いいです」
「駄目だよ。瑠衣も一緒がいい!」
「では、後ほど入りますので」
「何を言っているの? 瑠衣がコートを脱いで傘になってくれたから、君が一番濡れているじゃないか」
雪也くんに便乗して、柊一さまが出てこられると、僕は言い返せなくなる。
柊一さまは友でもあるから。
「瑠衣が風邪を引くのはイヤなんだ。瑠衣の身体が大切なんだよ」
断れない。
そこではたと気づく、僕……昨日アーサーに散々つけられた。
慌てて首筋のキスマークを手で押さえたが、時既に遅しだ。
「瑠衣、今更だよ。ずっと見えていたよ」
「‼」
まさか……雪也さまに言われるとは……執事たるもの、嘆かわしい。
「ゆ、雪也さま」
「ね、瑠衣。観念して一緒に入ろう。兄さまも同じだから」
可愛らしくウィンクする様子は、憎めなかった。
先ほどは随分落ち込んでいたようだが、もう大丈夫そうだ。
「分かりました。でも、少しお待ちください」
コホン――
咳払いしてガチャッと脱衣場のドアを開けると、案の定、海里とアーサーをユーリまで立っていた。
「……あなたたち、何をしているんですか」
海里が気まずそうに答える。
「な、何をって……その柊一は無事か」
アーサーは照れ臭そうに鼻の頭を擦りながら。
「何だか楽しそうだからさ」
ユーリは余裕でウィンクしてくる。
「はは、雨はいらないか」
まったく、海里もアーサーも砕けすぎだ。でも楽しそう――
ユーリーの影響もあるのかな?
「全員却下ですよ。でも強いて言えば……」
ごっくん!
皆が僕の一声を待っている。
「ユーリにシャワーの水量を増して欲しいです」
「そこか~」
雨を司る不思議な能力を持つユーリなら出来そうだ。
「瑠衣は神々しい女神さまみたいだな。了解! とっておきの優しいシャワーにしてやろう!」
ちょろちょとしか出てなかったシャワーの水量が一気に増す。
「わぁ、兄さま、シャワーのお水に虹がかかっています」
「綺麗だね」
七色の優しい雨が、浴室内に降ってサウナのようになっていく。
「温かいですね」
「春雨みたいに柔らかく、気持ちいいね」
「本当に」
結局僕は……柊一さまと雪也さまとシャワーを浴びた。
身体中についた愛撫の痕は、七色の春雨がべールのように隠してくれた。
柊一さまの全身に散らされた愛の印も、同様だった。
雪也さまは魔法のような時間に酔い、柊一さまはそんな弟君のはしゃぐ様子を、目を細めて見つめられていた。
そして僕も……肌馴染みの良い、この愛しい人たちとの時間に酔いしれた。
ホームシック気味だったのは、雪也さまだけでないのか。
僕も日本が恋しく、海里や柊一さま、雪也さまに会いたかったのだ。
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