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大きな翼 27
「ねぇ瑠衣、このシャワーの水、肌馴染みがいいね」
「これは日本と同じ水質ですね。あぁ……久しぶりで心地良いです」
ユーリの雨を司る力は大切な人を助ける時にのみ発動し発揮すると海里から聞いた。
ユーリは海里を従兄弟として慕い、その周りにいる人をも慈しんでくれる、真の英国紳士なのだ。
僕……普段は英国人のように暮らしているので意識していなかったが、日本を恋しがっていたようだ。
もう認めよう。
柊一さまがいらしたら、、執事として立派に勤め上げようと思っていた心が解されて行く。
僕はいつの間にか冬郷家をお守りした執事から、柊一さまの友人の顔になっていた。
「あっ、気持ちよかった」
「スッキリしましたね」
「うん、とっても」
「兄さまも瑠衣も艶々です」
「ゆきもだよ。傷もすっかり綺麗になって」
「あの、海里先生とテツさんのお薬のおかげです」
和やかな会話を交わしながらリビングに戻ると、アーサーと海里とユーリが、ティーカップを片手に談笑していた。
圧倒される程の気高き面構えの三人に、胸の奥がトクンと音を立てた。
「瑠衣! 温まったか」
「うん!」
執事ではなく僕として答えると、アーサーは目を見開き破顔した。
「あぁ~ 神よ。俺の瑠衣が戻って来てくれました」
「アーサーってば大袈裟だよ」
肩の力が抜けるとは、このことを言うのだろう。
しばらくして海里が重たそうなスーツケースを抱えてきた。
「柊一、持って来たよ」
「ありがとうございます。さぁ、これは雪也にお土産だよ」
「わぁ~ なんですか」
「日本が恋しいかと思って、色々詰めてきたんだ」
スーツケースは、一面お土産で埋め尽くされていた。柊一さまの優しい慈しみ深い心が、ぎっしりと詰まっていた。
「あ、これ! 僕の好きなお菓子だ。銀座和影のチョコレート! あ、こっちは、僕が使っていた冬郷家の紋章入りのタオル……わぁ……海苔に梅干しもある。しかも一越デパートの! 嬉しい! 嬉しいです。兄さま、大好きです!」
雪也さまがピタッと抱きつくと、柊一さまは幸せそうな表情を浮かべていた。
「どれも僕が今、恋しかったものです。流石、兄さまです。全部僕の好みをご存じで、すごいです。兄さま、大好きです」
今日の雪也さまは肩肘張らず、冬郷家で守られていた時のように幼く振る舞われている。
しかし、それがいいと思う。
こんな風に昔のように甘えて欲しくて……柊一さまはやってきたのだから。
「瑠衣!」
急に呼ばれて、不思議に思った。
兄弟の触れ合いの時間に、僕は不要なのに?
「何ですか」
「瑠衣にもお土産があるんだよ」
「え?」
柊一さまがスーツケースの閉じていた面を開くと、また同じくらいの量のお土産が出てきた。
「これは全部、瑠衣に持って来たんだ」
「え?」
「日本のお米に味噌汁、梅干し、出汁。あと瑠衣が好きな北鎌倉・月下庵茶屋の最中も持ってきたんだ」
目の前に山積みにされていく懐かしい日本の食材。しかも密かに気に入っていた最中まで。
開いた口が塞がらないよ。
嬉しさに呆然として、よろけてしまった。
「おっと!」
すぐに支えてくれるのは、僕のアーサーだ。
「柊一くんは気が利くな」
「僕は……瑠衣を大切な兄弟だと思っています。僕のお兄様のような存在なんです」
「うっ……」
執事たる者、けっして人前で泣くな。
そんな教えは、もういらない。
ここでは……嬉しい感情は隠さずに、素直に出していいのだから。
「ありがとう……嬉しいよ」
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