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大きな翼 29

久しぶりに見る祖母の姿に、ギョッとした。 もう父も母も他界したので、俺には血の繋がった縁者が限りなく少ない。  だから英国在住の祖母は、貴重な存在だ。 「ユーリ、いきなりすぎるぞ」 「だが、こうでもしないと、海里は、おばあさまに会わないつもりだったろう」 「う……」  図星だ。  俺は小さい時から、この祖母に弱いのだ。 「ようこそいらっしゃいました。アストン婦人」 「はじめまして、あなたがグレイ伯爵家のアーサーさんね」 「えぇ、海里の友人です」 「まぁ、カイリにこんな立派な友人がいるなんて驚いたわ。カイリ! 可愛いカイリは何処なの?」  参ったなぁ、ちっとも衰えていない。 「あー、ここですよ。おばあさま」   観念して振り向くと、皺の増えたおばあさまが破顔して、俺を呼んだ。 「まぁまぁ、あなた本当にカイリなの?」 「……俺ですよ」 「会うのは何年ぶりかしら? 見違えるようよ。立派になって……幸せそうな顔をして、一体どういう心境の変化?」    祖母は日本人と言っても、18歳から英国で暮らしているので白髪の髪も、顔立ちも何もかも、英国人のように見える。  俺も幼い頃は里帰りする母に連れられて、祖母の領地で過ごしたものだ。  あの頃の俺は、日本人離れした顔立ちで日本では虐められ、英国では奇異な目で見られ、己の形相を怨み悲しんで、よく祖母に抱っこして慰めてもらったのだ。 …… 「私の可愛いおまごちゃんはどこ?」 「う……ぐすっ、ぐすっ」 「まぁカイリ。どうして泣いているの?」 「おばあちゃま……みんな、ぼくのお顔……へんっていうの」 「可愛い子、泣かないで」  俺の母は気が強く、べそべそ泣く俺を叱咤するだけだったが、祖母は慈悲深い表情で俺の頬を包んでくれ、甘い甘いキスを頬や額に落としてくれた。 「カイリはね、大きくなったら王子様みたいにかっこよくなるの。それでいつかお姫様を救うのよ」 「ぼくが?」 「そうよ、だからこれは魔法のキスよ」 「おばあちゃま~だーいすき、もっとちょうだい」 ……  あの頃の情けない姿がバレているので、猛烈に恥ずかしいのさ。 「カイリや、しゃんとしなさい」 「は、はい!」  祖母はあの頃と何も変わっていない。  一時期突っ張って寄りつかなくなり、母が亡くなり縁も途絶えたと思っていたが、祖母はあの頃と変わらず、俺を大切に思ってくれていた。  それが伝わってくる……優しい抱擁を受けた。  そして幼い頃に受けた魔法を思い出した。 「そうか、おばあさまの魔法だったですね」 「ふふっ、王子様になれる魔法を、あなたにはかけたわ」 「効き目はばっちりでした」 「まぁ、では姫と出会ったのね。どこにいるの?」 「連れて来ました」    祖母がキョロキョロと部屋を見渡した。  アーサー、瑠衣、雪也くん、柊一。  祖母の視線が、柊一に向けられた。 「あら? もしかして……あなたが、お姫様かしら?」  こういう時の柊一は毅然としている。   「はい、その通りです。僕は男ですが……海里さんを愛しています」 「まぁ! そうなのね。あぁ、そんなに緊張しなくてもいいわ。もう私はこの歳よ。世間の常識や柵なんかよりも、私の可愛いカイリを幸せにしてくれる人の存在に感謝しているわ」  柊一も、祖母からの祝福のキスを受ける。 「あなたにも魔法をかけてあげるわ。あなたはまるでおとぎ話の住人のようだから、とてもよくかかりそう」 「……何をかけて下さるのですか」 「カイリとの永遠の幸せを――」        

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