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大きな翼 30
「瑠衣、あそこに俺たちの知らない可愛い海里がいるな。完全におばあさまに転がされている」
「アーサーってば……くすっ、でも僕もそう思うよ。海里ってば挙動不審だよ。でも、海里のおばあさまは、すごいオーラを持っているね」
本当に魔法使いみたいだ。
どうやらユーリの不思議な血は、ここから来ているようだ。
僕には縁がない世界なので、ただ呆然と立ち尽くすのみ。
おばあさまが、今度はユーリを抱きしめる。
「ユーリ! わたしのもうひとりのおまごちゃん」
「おばあさま」
「あなたが一番色濃く、私の血を受け継いだわね」
「魔法使いの血ですか」
「ふふっ、それは迷信よ。でも晴れ女とか雨男という言葉があるでしょう? きっとそんなものよ。それにしてもユーリの雨を司る力は、ちゃんと人の役に立っているのね。それを聞いて、ほっとしたわ」
「おばあさまの言いつけですからね」
「さぁ、おばあちゃまにキスしてちょうだい」
「はい」
美しいユーリがおばあさまにキスする光景は、物語のようだった。
おばあさまが微笑むと10代の少女のようにも見え、何故か母を想い出し、目を擦ってしまった。
僕が知る肉親は父と母だけだから、祖母を知らない。母を産んだ人に会ってみたかった。桂人は幼い頃、祖母に懐いていたそうだ。その人が僕の祖母にあたるはずだが、写真も何もない時代なので、実感が湧かない。
「さぁ……次はあなたよ」
「え?」
いきなり呼ばれて驚いた。僕は部外者なのに何故?
おばあさまが僕の頬を手で挟み、じっと覗き込んでくる。
「あ、あの?」
「あなたは……やっぱり霧島の血ね。それに……」
「え……っ」
「この顔……私の従姉妹に似ているわ。もしかして従姉妹の子供の結……結の息子なのでは?」
言葉が出てこない。何故、ここでいきなり母の名が?
「何故……母の名を」
海里のおばあさまは、優しく微笑まれて……僕の知らない話を教えてくれた。
「それにしても結の息子が何故、海里と一緒にいるのかしら? 海里の母親は奔放で何も教えてくれないから、知らなかったわ」
「あ、あの……僕の母の名を何故……ご存じなのですか」
「……私の出身は東北の小さな集落だったわ。霧島一族は雨を司る巫女の一族。結は……美しい従姉妹の子供だったわ。従姉妹の家は分家筋で恵まれた環境ではなかったけれども、その美しさは母親以上に秀でていると、英国まで噂が届く程だったわ」
え? じゃあ……海里のおばあさまは、僕とルーツが同じ?
海里にも、僕と同じ血が少しは流れているのか。
「そんなに驚かなくてもいいわ。あの村落にかけられた呪いはもう解けたんでしょう? ユーリから全部、聞いたわ」
「は、はい――」
「いらっしゃい」
海里やユーリにしたように、僕も抱きしめてくれる。
「結の無念は英国まで届いていたの。無念を……晴らしてくれたのは、息子のあなたね、ありがとう」
「あ……」
「感じるわ。結からのメッセージが届くの。さぁ、あなたにも魔法をかけてあげるわ。あなたの恋人は、あそこにいるアーサーさんね。そしてあなたは幸せな世界に今はいる。違って?」
「おばあさまは、やはり魔法使いのようです」
「ふふ。名前は……」
「瑠衣です」
「良い名を与えてもらったのね、瑠衣……とても縁起が良い名前。永遠の幸せをあなたにも――」
本当に同じ血脈なんだ。
抱きしめられて気付く、近しい温もり。
「可愛い瑠衣、苦労した分、絶対に幸せになれるわ」
「ありがとうございます」
最後に幼い雪也さんにも、祝福のキスを落として下さった。
「可愛い坊や。あなたの未来は輝かしいわ。春風と陽光があなたを生涯守ってくれるでしょう
そんな嬉しい予言を授けて下さった。
僕らは、世間から見れば特異な関係かもしれないが、この場にはそんな穿った目はなく、ただ長い人生を生き抜いた老婦人からの愛情だけで満ちていた。
「お会い出来て良かったです」
「私もよ、あなたたちに会えてよかったわ。There is always light behind the clouds!」
雲の向こうは、いつも青空!
これは若草物語の作者のルイーザ・メイ・オルコットの言葉だ。
人生は晴れの日のように明るい時もあるし、暗い時もある。でも雲の向こうは必ず青空が広がっている。だからどんな状況でも、必ず希望があり、明るい未来があるのだというメッセージだ。
「雨は禊ぎよ。穢れを洗い、身を清めてくれるの」
「おばあさま、その通りです」
ユーリがウインクすれば、外に再び雨が降り出す。
「さぁ新婚旅行をお楽しみなさい。カイリ! これであなたの英国滞在中は安泰よ」
「ありがとうございます!」
なんとも不思議なマジックアワー!
それがユーリがここに来た意味、おばあさまが駆けつけて下さった意味なのだ。
「良い旅を、シューイチ、カイリの大きな翼に乗ってお行きなさい。英国の空を自由に羽ばたきなさい!」
『大きな翼』了
あとがき(不要な方は飛ばして下さい)
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おばあさまは日本の東北出身で、英国人と結婚し二人の娘を授かりました。次女が海里の母で長女がユーリの母になります。だから海里とユーリは従兄弟同士です。
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