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霧の浪漫旅行 3
「ん……兄さま? 瑠衣? どこ?」
目覚めると、また一人になっていた。
そうか……結局……全部夢だったのか。
兄さまが勉強を教えて下さったのも、瑠衣と三人で眠ったのも。
ここは、寮の僕の部屋か。
でも夢の中で、僕が一番会いたい人に会えた。
幸せな夢だった。
よしっ! 今日から頑張ろう!
そんな気分で起きて辺りを見渡すと、見慣れぬ部屋だった。
えっと、夢ではなかったの?
その時、廊下をパタパタと走る音がして、パーンっと扉が開いた。
「雪也、おはよう! 今起きたところかな?」
「に、兄さま? 本当に兄さまですか」
「どうしたの? そんなに驚いて」
「良かった。夢ではなかったのですね」
「そうだよ」
「でも……その格好は?」
兄さまからは、お味噌汁の香りがした。そして何故か白い割烹着を着ていた。
「あぁこれ? くすつ、アーサーさんの趣味だよ」
「割烹着が?」
「うん、まぁそうみたいだ。くすっ」
「何がおかしいんですか」
「おいで、もっと面白い光景を見せてあげよう」
兄さまに手を引かれて、グレイ家の厨房に案内される。
そこには……
ギャルソンのような、黒いエプロン姿のアーサーさん。そしてその横に少し不服そうに、頬を膨らませた瑠衣。
「瑠衣、すごく可愛い!」
「ゆっ、雪也さんまで……もうっ言わないで下さい」
何故か瑠衣はフリフリのレースの白いエプロンをつけていた。優しい顔立ちの瑠衣に、ドレスみたいで似合っていた。
なるほど、これがアーサーさんの趣味なのか。
「兄さま、僕も仮装したいです」
「仮装? あぁそうだね、これは仮装みたいだね」
するとアーサーさんが振り向いて、ニヤッと笑う。
「柊一くんと雪也くんは双子みたいだから、同じ割烹着だよ」
「やった! 僕も兄さまと同じだ」
「割烹着姿が似合って可愛いな。天使みたいだ。そうだ、海里を起こして来るといい。あいつには、この衣装な」
「わぁ! きっと似合いますよ」
なんだかワクワクしてきた。
瑠衣はフリフリエプロン姿で、お味噌汁の味見をしていた。
「美味しそう。瑠衣が作ってくれたの?」
「柊一さんと一緒にね。卵焼きもあるよ」
「わぁ……夢にまで見た日本食だ」
****
「海里さん、海里さん」
「ん……柊一、やっと戻ったのか」
「はい、昨夜はお心遣いをありがとうございました。もう朝ですよ」
目の前に現れた柊一は、天使のような白い衣装を着ていたので、不思議に思い抱き寄せた。
「これは?」
「割烹着ですよ。アーサーさんが貸してくれました」
「ふぅん、アイツの趣味か。どうせなら白いフリフリなエプロンが良かったが」
「くすっ、それなら瑠衣がつけています」
柊一は純粋だから嬉しそうに教えてくれるが、アーサーの下心を思うと苦笑してしまう。
「アーサーはどうせ真っ黒なギャルソンのエプロンでもつけて、一番美味しい所を持って行っているのだろう」
「どうでしょう? アーサーさんも素敵でしたが、僕にはこの衣装を身につけた海里さんの方が、もっとカッコイイと思います」
ニコニコと差し出された衣装を見て、ニヤリとしてしまった。
「なるほど、これなら勝てるかもな!」
やる気が出たのでベッドから抜け出て立ち上がると、柊一が顔を真っ赤にして目を手で覆ってしまった。
「あぁっ、また、そんな……全裸で……」
「おいおい、そんなに照れるな。いつも見ているだろう?」
俺は柊一を抱きしめて、朝の口づけを落とした。
「ふぅん……少し懐かしい味がするね」
「あ……お味噌汁の味見を少し……」
「ふふっ、今日のキスは和風か」
「ごめんなさい」
「なんで謝る? 可愛いよ。今日もとても――」
キスをすれば……すぐに蕩け出す柊一。
だから吐息は甘くなる――
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