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霧の浪漫旅行 5
お詫び……
昨日の更新、本文が途中で切れていました。
転載ミスです、申し訳ありません。
加筆修正済みです。
どうぞよろしくお願いします。
またアトリエブログに厨房の様子を表現した補足画像を置いています。
https://fujossy.jp/notes/30707
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アーサーの先導で、厨房に向かった。
このお屋敷の厨房には、正直、嫌な思い出しかない。
だが雪也さんに久しぶりに日本食を食べてもらいたい。
だから……やはり厨房が近づくにつれ、少しだけ足取りが重くなってしまった。
「瑠衣、大丈夫だ。もう、ここはあの寒くて冷たい厨房ではないんだ」
「どういう意味?」
アーサーは僕の状況に、機敏に反応してくれる。
きっと君の後悔がそうさせているのだね。
「ノアがここを改装したんだ。温もりのある厨房に生まれ変わったんだよ。スタッフが楽しそうに団欒していることも多いよ」
「団欒? あり得ないけど……本当に、そうなの?」
「そうだよ、君はこの屋敷に寄りつかないから、まだ見ていなかったんだな。さぁどうぞ」
中に入ると、コンクリートが剥き出しだった床にはテラコッタのタイルが敷かれ、牢獄のように無機質だった照明は、アンティークなシャンデリア風のものになっていた。
壁際には飾り棚まで置かれ、かわいい柄のお皿が整然と並んでいる。
「なっ、居心地がいい空間になっただろう」
「うん、驚いたよ」
まるで街のレストランにような空間に驚いた。
「瑠衣、素敵な厨房だね。冬郷家もこんな風にしたいな」
「そうだね」
「さぁさぁ、お二人さんはこれを着けて手伝っておくれ」
アーサーから手渡された布を広げると、白い割烹着とエプロンだった。
まさか――
「どっちがどっちを着るかな?」
「瑠衣にはエプロンが似合うよ」
「う……そ、そうかな?」
「だってアーサーさんが黒いエプロンで決めているんだから、絶対瑠衣は絶対にエプロンだよ」
柊一さんが天使のように微笑む。
「う……」
「んふふ。瑠衣、君とこんな風にふざけたり、楽しいことをしてみたかったんだ。えっと僕はこれだな。これは昔みたことがある……確か……割烹着であってる?」
「えぇ」
「さぁさぁ急いで手伝ってくれ。俺には日本食は作れないからな」
アーサーが僕の胸にエプロンをあてて、にっこり笑う。
まったく憎めない笑顔だ。仕方が無い。
「……後ろのリボンを結んでくれる?」
「畏まりました♫」
「も、もうっ――」
キュッと腰で結んでもらい、耳元で甘く囁かれる。
「なぁ瑠衣、裸にこれ……いつかやってみてくれよ」
「アーサー‼」
柊一さんに聞かれていないかと焦って見回すと、柊一さんは割烹着の着方が分からないようで、被ったまま頭を出せずに藻掻いていた。
「くすっ、そうじゃないよ」
「瑠衣!」
「袖に頭は通らないよ」
「ありがとう。これなら汚れなくていいね。そうだ、桂人さんにもいいかも」
「くすっ、桂人はきっと嫌がりますよ。服を着るのも面倒な子なのに」
「じゃあ割烹着だけ着たらどうかな? えっと『裸割烹着』……ってヘンかな」
真顔で柊一さんが呟くので、アーサーと一緒に抱腹してしまった。
ここには、楽しい時間が流れている。
もうあの辛かった日々は全部過去で、今の僕は幸せで満ちている。
「こんなにも明るい世界をありがとう、アーサー」
笑いながら感謝の言葉を伝えた。
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