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霧の浪漫旅行 8
アーサーに衣装部屋に連れて行かれ、いつになくラフな服を着せられた。
隣にいる柊一さまも同じだ。
アーガイルのセーターにダッフルコートか。
柊一さんは白やベージュの優しい色合いで、僕は紺や茶系のシックな色合いだった。
「アーサー、これじゃ、まるで学生のようだよ」
「ふふん、それを狙ったのさ。あぁ、俺の瑠衣はなんと清楚で可愛いんだ。本当によく似合っているよ。日本人は若く見えるから、君たちはまだ大学生のようだ」
僕と柊一さんは顔を見合わせて、頬を染めた。
「そうだ、瑠衣、今日は僕たちクラスメイトってことにしない?」
「それはいいですが、アーサーと海里はどうするんですか」
「えっと……」
明らかに落ち着いた雰囲気の二人に、もう学生は無理だなと苦笑した。
「おい、瑠衣、冷たい目をするな。俺は君と同い年だぞ?」
「あ……うん」
アーサーが口を尖らすと、海里も続いた。
「そうだ。瑠衣と俺は同い年だぞ」
「そうだったねぇ」
まぁ……それはそうなのだけれど、海里とアーサーは同い年に見えるが、僕はこんな格好させられたせいか、彼らと同い年はイヤだと思ってしまった。
あれ? 僕ってこんなに我が儘で意地悪だった?
「そうだ!」
「柊一さん、何か思いついた?」
「アーサーさんと海里さんは、僕たちの大先輩にしましょう!」
「大⁉」
アーサーと海里が顔を見合わせて、ギョッとしていた。
「アーサーのせいだぞ。お前が老けたから俺まで」
「何をいう、海里こそ皺が増えたんじゃ」
「馬鹿! これは幸せ皺さ」
二人がくだらないことでギャーギャー言い合っている様子が、微笑ましい。
良い感じに、ダブルデートの雰囲気になってきたかも。
もちろん止めは柊一さんの一言。
「分かりました。じゃあただの『先輩』で」
「え? 『大』が取れただけなのか」
「はい、僕……先輩に憧れがあって」
「なんだって?」
「あ、いえ、兄だから年上の人に弱いんです。海里さんが年上なのが嬉しいです」
ポッと柊一さんが頬を染めたので、その話はそこで和んだ。
よかった!
海里もアーサーも、しつこくて大人げないところがあるからね。
こんな言い合いをしていたら永遠に出掛けられないと思ったよ。
「さぁ行こう!」
僕たちは2人×2人でロンドンの街に繰り出した。
霧の街、ロンドン。
今日は僕らの明るい心が外灯のように、冬空の街を照らすだろう!
柊一さまの希望で、僕らは赤い二階建てバスに乗車した。
「皆、上へ行こう、最前列がいいんだ」
あの日の僕を思い出す。
初めての自由、初めて高い所から世界を見た日を――
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