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霧の浪漫旅行 15

「柊一さん、上を見て!」  瑠衣に言われて回転木馬の天井を見上げると、青空の絵が描かれており、気球や風船が、白い雲と共にぷかぷかと浮かんでいた。  ファンタジック!  ドリーミング!  回転木馬で巡る世界は、まるでおとぎ話のようだ。 「柊一、楽しいか」 「はい!」 「俺も楽しいよ。こんなこと、日本ではなかなか出来ないからな」 「えぇ」  先方を見ると、瑠衣とアーサーさんが、さり気なく手を繋いでいた。  どうやら二人は以前、乗ったことがあるようだ。  懐かしそうな表情で、甘く見つめ合っていた。  瑠衣……君が日本にやって来る前の様子を知ることが出来て、とても嬉しいよ。  回転木馬が駆け抜けていく先には、明るい未来が見え隠れしていた。  雪也が僕よりずっと背が高くなって、日本に戻って来る日。  雪也が結婚する日。  雪也がパパになる日。  雪也の孫をこの手で抱く日。  僕と海里さんは、周囲が変わっていく中、いつも陽だまりの中で、穏やかな時を積み重ねていくのだろう。  回転木馬は少しだけ先の未来を、僕に見せてくれた。 「柊一、着いたよ」 「はい」 「さぁ」  海里さんがすっと手を差し出して下さったので、僕はまるでおとぎ話の姫のように木馬から降りた。 「楽しかったかい?」 「はい、とても」 「良い夢を見てきたようだな」 「はい、近い未来を――」  見渡せば、パステルカラーで彩られた移動式遊園地にも夕日がさしていた。 そろそろ帰らないと駄目かな?  楽しかったから……名残惜しい。  小さな子供みたいに切ない気分になってしまった。  すると、アーサーさんが素敵な提案をしてくれた。 「柊一くんはCotton Candyを食べたことあるかい?」 「……コットンキャンディ?」 「綿飴のことだよ」 「あ……あれは虫歯になるから駄目だと母が……」 「よし、じゃあ食べよう!」 「え?」  真っ白な雲みたいで、一度食べてみたいと思っていたのだ。    もう大人になったのだから、食べる機会がないと思っていた。 「海里さん、大人でも食べてもいいのでしょうか」 「柊一は可愛いね。君の身体のメンテナンスは、全部俺がするから、気にせず食べるといい」 「は、はい、では」 「柊一さん、何色にする?」 「あ……じゃあ白を」  生まれて初めて綿飴を食べた。   「甘い……あ、口の中ですっと解けていきます」 「どれ?」  海里さんがパクッと横から綿飴を食べたので、楽しい気分になってしまった。 「海里さん、顎についていますよ。おひげみたいです」 「はは、将来はこんな髭を生やすかな?」 「ふふ、きっとサンタクロースの衣装が似合いますね」 「……いつか雪也くんの子供にプレゼントをあげる日がくるかな」 「あ……僕もさっきそんな夢を見ていました」 「いいね」  夢を見よう。  一人では叶えられない夢は、 あなたと一緒に――        

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