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霧の浪漫旅行 20

「柊一?」 「しー、眠ってしまったようだよ」 「そうか。今日はずっと興奮していたからな」  列車はボックス席だった。  俺の肩にもたれて眠ってしまった柊一に、愛おしさが増してくる。  柊一の重みと温もりを受け止められる人でいられることに、しみじみと幸せを感じていた。  そして俺の心を預けられる柊一の存在に、改めて感謝した。 「海里、これをかけてあげて」 「瑠衣、いいのか」 「そのつもりで持って来たんだ」  柔らかな肌触りのカシミアのストールは、勿忘草色だった。 「懐かしい色だな」 「そうなの?」 「あぁ、思い出の色だ」  まだ柊一と深い関係になる前に、贈った膝掛けと同じ色だった。  あの頃の君は……背負うものが多すぎて、心労が絶えなかった。  幼い雪也くんをつれて病院に現れては、疲労困憊の様子で転た寝をしていたな。  あの勿忘草のブランケットは、今も書斎の君の椅子にかけてある。  病院の売店で買った安物なのに、丁寧に大切に扱ってくれる君が好きだ。 「海里なら……もう知っていると思うけれども、柊一さんは本当はあまり身体が丈夫でないんだ。雪也さまにご両親は神経を尖らしていたので気付いていいなかったようだが、持って生まれた体力がないんだよ。次期当主、世継ぎとして帝王教育を受け、強くなろうと必死に努力されていたが」  瑠衣は真剣な眼差しだった。  そんな柊一を瑠衣が傍でサポートしていたのだろう。 「知っているよ。だから……俺がいる。違うか?」 「うん、医師である海里がいつも傍にいてくれるのが、本当に心強いと思う。これからも大切にして欲しい」 「もちろんだ」  瑠衣に言われたことは……俺が柊一と付き合い出し、身体を重ねるようになってから気付いたことだった。 柊一には、頻繁な逢瀬は禁物だ。    以前、欲に溺れる程抱いてしまった後、暫く体調を崩してしまったことがあり、猛反省した。  砂糖菓子のように脆い身体なのだ。  それは持って生まれた体質なので、変えようがない。    以来……最大限心を配り気を遣って、優しくソフトに抱いている。  俺はそれでも構わない。  心の糸はいつも絡まっているし、一度の逢瀬がより大切に感じられるから。 「ありがとう。柊一さんの伴侶になってくれて」  瑠衣は執事として、友人として……深く感謝の意を表して、頭を下げた。 「瑠衣の大切な柊一を、俺は生涯守り抜くよ」 「頼もしい言葉だ」  俺たちの様子を聞いていたアーサーが、感極まった表情を浮かべていた。 「最高だな。最高の出会いだったんだな。海里と柊一は」 「あぁ、お互いになくてはならない存在なんだ」 「俺と瑠衣もそうだ」  列車はノーサンプトンシャーに間もなく到着する。  今宵は、ふたりだけの世界で、君を優しく包み込んで眠ろう。  身体を繋げるのは、二人で生きていると感じられる素晴らしい行為で、心を繋げられるのは、二人で生きていく糧となる。 「男同士って、いいな」 「そうだね。深い繋がりだよ。心と身体でしっかり繋がって生きることだ」     

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