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霧の浪漫旅行 22

 ロンドン・寄宿舎  兄さまたちに見送られ、一人で寄宿舎に戻った。  途中、すれ違った人に「Hi!」と気さくに挨拶を心がけてみた。  挨拶を返してくれる人、不思議そうに見つめる人、様々な反応が返ってきたが、気にしない。  僕が変わらなければ、打破出来ないことを知っているから。  久しぶりにアーサーさんと英語で気兼ねなく会話を出来て、自信を取り戻せた。  瑠衣に会えて、心が整った。  兄さまに会えて、心から癒やされた。  だから、もう一度頑張ってみようと思った。  このまま終わりたくない。  夕食はビッフェスタイルで、食堂に集まる。  いつもなら一人で食べていたが、今日は思い切って声を掛けてみた。   「Is this seat taken?」 (この席、誰か座っている?) 「Yes My friend is sitting there」(あぁ友達が座っているよ)  いつもなら、ここで引いてしまうところだ。    だが今日は違う。勇気を出そう! 「僕も隣にいいかな?」 「あぁ、いいよ。雪也から声を掛けるなんて珍しいな」 「もっと話をしてみたくて」 「オレたちもそう思っていたんだ。君はいつも俯いているし、一人が好きなのかなって思ってさ」 「そんなことない! 僕……君たちと仲良くなりたい。話したいんだ!」 「照れるな、クラスメイトだ。仲良くしようせ!」    良かった。自分から殻に閉じこもってしまい……どんどん世界が狭まって呼吸が苦しくなっていたんだ。  窓を開けてみよう、心の窓を。  きっと新しい道が開ける。  良いことが舞い込んでくる、そんな予感―― **** 「春子、今日は銀座にお出かけしましょう」 「分かりました」 「あなたの春物のお洋服を買いに行くのよ」 「えっ、よろしいのですか」 「背がまたすらりと伸びて、ますますキレイになったわね」 「あ……ありがとうございます」  私の中では、お兄ちゃんの方がずっと綺麗だと思うけれども、嬉しかったわ。  支度をしながら、ふと、先日お兄ちゃんが先日くれたリップクリームを塗ってみようと思い立ったの。 「確かここに……わぁ可愛い桜色だわ」  唇から春ね。 「あら?」  箱の裏に何か文字が書いてあるわ。  不思議に思いじっと見つめると、英語だった。  さらにじっと見つめるとLondonと書いてある。  これは何かしら? 「あの奥さま……ここには何と書いてあるのですか」 「あら、英語ね。Londonの寄宿舎の住所よ」 「あ!」  これは雪也くんの居場所なのね! 「ここにお手紙を書きたいです」 「外国へのお手紙は、AIRMAILというのよ」 「そうなんですね」 「銀座で伊西屋に寄りましょう。素敵な便箋を買ってあげるわ」 「よろしいのですか」 「大切なLove Letterでしょう?」 「お……奥さま!」  Love Letterの意味なら知っているわ。  好きな人へ出す、恋文。  私、異国の地でひとり奮闘している雪也くんがカッコイイと思っているの。  だからエールを送りたい。 『あなたのことが、ますます気になっています。再会を楽しみにしているわ!』    そう書くつもりよ!      

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