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霧の浪漫旅行 24

「ん……ここは?」  夜中に目覚めると、とても暖かい場所で眠っていた。 「……心地いいな」  両親が健在の頃……人肌は僕にはとても遠いものだった。 寂しくて人恋しくて、温もりが欲しいと思ったこともある。  だが家督を継ぐ者に、そのような甘えは許されなかった。  だから冷たい布団で丸まって眠るしかなかった。  両親亡き後は背負うものが大きすぎて、苦しかった。  弟の温もりを守るのが、僕の全てだった。  だから、いつも与えられる温もりは……遠い所にいた。  海里さんと暮らすようになってから、彼はいつも僕を宝物のように抱きしめて眠ってくれる。  夜毎の逢瀬は僕の体力的に叶わないが、彼はいつも変わらずに裸の胸に引き寄せて、僕に全身の温もりを与えてくれる。  それがどんなに居心地が良く、どんなに幸せなものか。   今の僕は知っている。  そっと彼の胸に手の平をあててみた。  逞しい胸の筋肉を感じ、規則正しい鼓動を感じると、ほっとした。  新婚旅行なのに疲れ果てて列車の中で眠ってしまい、ここまで起きないなんて、己の体力のなさが情けなくもなるが、自分を卑下するのはやめよう。  こんな僕の全てを愛してくれる人がいるのだから。 「海里さん……」  海里さんは就寝時は裸だ。  だから月明かりに、海里さんの全てを感じ取れる。  僕は少し身動ぎして、彼の胸元に唇を這わせてみた。  彼がいつもしてくれることを真似してみよう  ペロペロと胸の尖りを舌先で舐めると、海里さんが眉を無意識にしかめた。  あれ? 気持ち良くなかったかな?  あ……そうか、こっち?  僕はもぞもぞと動き出す。  えっと……ここはアーサーと瑠衣が建てたコテージなのかな?  居心地のよい空間は充分に暖められていて、裸になっても寒くなさそうだ。 「よし、僕も――」  そっとベッドから抜け出して、パジャマのボタンを外した。  せっかく着せて下さったのに、すみません。  僕もあなたと同じ姿になってみたいです。  今回は新婚旅行です。だから……普段しないことも、してみたいのです。  上半身裸になると、鏡に貧弱な身体が映った。  運動しても筋肉の付かない身体は、二十代後半になっても少年のようなまま。いずれ雪也に追い越されるのは間違いない。  でも……僕は、この身体が好きだ。  海里さんが欲情してくれるのが、嬉しい。  いつになく大胆になって、そのまま下着ごと脱ぎ捨てて全裸になった。 「ん……柊一……? 何をしている?」 「海里さん、起こしてしまってすみません」 「あぁ、今、目覚めた。ところで、どうしてそんな姿に?」 「あ、あの……」  恥ずかしくなって股間を手でさりげなく隠してしまった。 「おいで……嬉しいよ。君から積極的になってくれるなんて」 「ぼ、僕だって男です。あなたに欲情して……」 「ふっ、もしかして兆してくれた? 俺の裸体に」 「うっ……」  図星だった。 「嬉しいよ。おいで、今宵は肌を重ねてもいいのかい?」 「そうして欲しいのです」  僕から大胆になるのは無理だったが、海里さんに優しく手を引かれたので……仰向けになった。  それから手を大きく伸ばし、僕の北極星《ポラリス》を抱きしめる。 「海里さん、大好きです」 「柊一、君と英国にいるなんて夢のようだ」 「僕もです。まだ夢を見ているようです。海里さんと過ごす日々は毎日がおとぎ話のようで……」 「安心しておくれ。これは生涯続くおとぎ話だよ。頁を捲っても捲っても……幸せな場面ばかりだ。今宵の俺たちのようにね」  口づけから始まる、儀式めいた逢瀬。  星の瞬きのようなトキメキを受け、溢れてくるのは愛情。  流れ星に乗って駆け巡るのは、僕の白馬の王子様への溢れる想い。    

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