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霧の浪漫旅行 25

「今頃、二人はどうしているかな」  瑠衣はパジャマにガウンを羽織った姿で、窓辺で中庭を見つめていた。 その先には、俺たちの別邸、白い三角屋根のコテージがある。 「二人の甘い時間を過ごしているさ。新婚旅行だからな」 「そうだね。だといいな」 「さぁもうこっちにおいで。そこは冷えるよ」  彼の薄い肩にカシミアのストールをふわりとかけて、抱き寄せてやった。 「ありがとう」 「今日は楽しかったな」 「今日だけ大学生になったみたいだったよ。ねぇ、学生時代って、あんな感じだった?」 「ダブルデートなんてしたことないから、分からないよ」 「……君はカッコよかったからモテただろう?」 「瑠衣を探していたよ。いつも……石畳の街で」  瑠衣がハッとした表情で振り向いたので、その唇を貪るようにキスをした。 「きゅ、急だね」 「ずっと我慢していた」 「いつから?」 「海里と柊一の熱々な雰囲気にあてられたよ」 「僕もだ」  ポーカーフェイスが得意な瑠衣。    君も俺と同じ気持ちだったなんて、嬉しいよ!  一方通行でないって、最高さ!  そのまま、俺は瑠衣を横抱きにした。 「もう待てないよ」 「えっ! わっ」  瑠衣が驚いた表情で、俺にギュッとしがみつく。  揺らがない身体に、フッと笑みが漏れる。  このために、いつも鍛えているのさ。 「君って人は、もう! 相変わらずやんちゃだね」 「大人はみんな子供だったけれども、童心は今もここにあるよ」  瑠衣がそっと俺の胸に手をあててくる。 「ん……よせ。くすぐったい」 「どうして? 僕の胸はいつも、しつこいくらい触るのに」 「ソレとコレとは別だ。ははっ! 擽ったい」 「ふふっ」  ポンっと瑠衣をベッドに投げ落とす。(といっても優しくだ) 「瑠衣、今日の君、すごく良かった。あぁやってフランクに話す君に痺れたよ」 「そ、そうかな? まだ慣れないよ。ヘンじゃなかった?」 「最高に可愛かった! 世界中に自慢したい程に。俺たち……君と柊一くんも含め、もう主従関係ではないんだ。だから今日みたいなのが絶対にいい!」 「うん!」  お! 可愛い返事だな。  瑠衣はいつもは大人びてクールなのに、時々とてもあどけなくなる。    そんな所も、大好きだ。  振り返るといつも瑠衣がいる。  そんな生活が当たり前になった毎日だが、それを当たり前だとは思わない。  ここに二人がいられるのは、奇跡。  俺は瑠衣だけを信じて生きていく。  遙か遠い未来まで、瑠衣と歩んでいく。 「このまま抱いていいか」 「うん……」  瑠衣のガウンの紐を解く。  瑠衣の心を解く。 「この白い肌……変わらないな」  象牙色の素肌の触り心地を確かめると、瑠衣も俺のシャツを脱がし出す。  妙に手際がいい。 「君の方が手早いな」 「慣れているから」  瑠衣が俺に抱かれる時、まず最初に触れる場所がある。  俺の心臓の音を耳で確かめ、胃癌の手術後に口づけをする。  まるで儀式のように。 「どうして、いつも……それを?」 「君が生きていてくれることに感謝したいんだ」  こんなにも俺を求めてくれる君を遺しては、絶対に逝けないよ。 「俺たちは長生きするよ」 「僕を一人にしないで欲しい」 「離さないよ。今度は俺たちが日本に行こう」 「あ、いいの?」 「当たり前だ。君の実家に泊まろう」 「うん! 夏がいいね。あそこは目の前が海だから……僕、海水浴ってしたことがないのでしてみたい」 「いいな。君の望みは叶うよ、いつだって叶えてあげるよ」    お互い裸になり、手と足を絡め合って一つになる。  俺たちはこうやって夜毎に、二人でひとつのものになる。  瑠衣の厳かな儀式に返すのは、騎士の誓い。  心の剣を鞘から抜いて、瑠衣に預けた。 「瑠衣、愛しているよ。愛していくよ」 「生涯、僕の傍にいて……」  今日も明日も守っていくのは、騎士の誓い。  俺は誓う!  謙虚であれ。  誠実であれ。  生涯、ルイを守る人であり続けることを誓う!  

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