494 / 505
霧の浪漫旅行 31
「瑠衣、そろそろ気が済んだか」
気がつくと……海里さんと柊一さんが宿泊しているコテージの周りを、アーサーとぐるぐると何周も歩いていた。
最初は心配で……でも今は、ポケットに入れてもらった温もりが心地良くて、逞しい君の身体に寄り添って歩くのが楽しくなってしまったんだ。
「あ、ごめん。そろそろ戻る?」
「いや、せっかく外に出たんだ。兎小屋に行くか」
「行く!」
僕のために作ってくれたガーデンには、日本の桜の樹が植えられ、その下には兎小屋が設置されていた。
そこで白い兎とブラウンの兎を番いで飼っている。
「うさちゃん、おはよう!」
僕は無類の兎好きなので、小屋に駆け寄って、白兎を抱っこしてやった。
「あぁ可愛い、可愛いね!」
「ははっ、可愛いに決まっているさ。その子は君の子みたいだもんな」
「ふふっ」
モフモフとした毛がくすぐったくて目を細めていると、ブラウンの兎がじっと見つめてくる。
「おいで、アーサーラビットも抱っこしてあげよう」
「おい、そんな名前だったかな?」
「君がじどっと僕を見つめる時と似ているよ」
「言ったな」
「ふふっ」
僕とアーサーは、きっと、とても子煩悩になると思う。
「ノア様の所に赤ちゃんがやってきたら、抱かせてもらえるかな?」
「もちろんさ、瑠衣がテーブルマナーを教えてやってくれ」
「そんな日が来るのかな?」
「来るさ。それからきっと雪也くんにもいずれ……」
「え? 雪也さんにも?」
「ほら、桂人くんの妹に恋しているようだから」
「あぁ、遠距離は大変だから……分からないけどね」
弱気なことを言ってしまった。
アーサーが僕に13年間、月1で手紙を送ってくれたことを思えば、そんなこと言えないはずなのに。
「お互いに、手紙を出し合えるといいな」
「ごめん。僕が返事を一度も出さなかったの……怒ってる?」
「んー、怒ってはいないが、一度位は返事をもらってみたかったな」
アーサーが口を尖らするので、申し訳ない気持ちが増した。
「あの、今からでも遅くない?」
「遅いことはないよ。書いてくれるのか」
「手紙を出すよ。君に」
「同じ所に住んで、いつも一緒なのに?」
「駄目かな」
「嬉しいに決まっているさ! 俺も久しぶりに君に手紙を書くよ」
「それ、何だか楽しそうだね」
Love Letterを出そう。
愛の言葉をしたためて――
****
ベッドの中で服の上から触れ合い、睦み合っていた。
朝食を取ってから、ずっと――
朝食後すぐに横になることも、白昼堂々、触れ合うことも、したことがないので、新鮮な気分だった。
「海里さん、そろそろイングリッシュガーデンを散歩しませんか」
「いいね。そろそろ起きるか」
「はい」
「じゃあ最後に刻印をひとつ」
「あ……」
最後に、柊一のシャツのボタンを一つ二つ外して、鎖骨の上についている花びらをチュッと吸い上げて、上書きした。
「あ……もうっ」
「大丈夫、シャツでギリギリ隠れる位置だよ。怒った?」
「違います。嬉しいのです。ここ……熱を帯びて……海里さんからのご褒美のようでドキドキします」
「可愛いことを言ってくれるんだな、君って人は、いつも」
「この痕があれば……僕と海里さんは、いつも一緒なんです」
ニコッと微笑む柊一の可愛さに、今日も悶絶した。
ともだちにシェアしよう!