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霧の浪漫旅行 31

「瑠衣、そろそろ気が済んだか」  気がつくと……海里さんと柊一さんが宿泊しているコテージの周りを、アーサーとぐるぐると何周も歩いていた。  最初は心配で……でも今は、ポケットに入れてもらった温もりが心地良くて、逞しい君の身体に寄り添って歩くのが楽しくなってしまったんだ。 「あ、ごめん。そろそろ戻る?」 「いや、せっかく外に出たんだ。兎小屋に行くか」 「行く!」  僕のために作ってくれたガーデンには、日本の桜の樹が植えられ、その下には兎小屋が設置されていた。  そこで白い兎とブラウンの兎を番いで飼っている。 「うさちゃん、おはよう!」  僕は無類の兎好きなので、小屋に駆け寄って、白兎を抱っこしてやった。 「あぁ可愛い、可愛いね!」 「ははっ、可愛いに決まっているさ。その子は君の子みたいだもんな」 「ふふっ」  モフモフとした毛がくすぐったくて目を細めていると、ブラウンの兎がじっと見つめてくる。 「おいで、アーサーラビットも抱っこしてあげよう」 「おい、そんな名前だったかな?」 「君がじどっと僕を見つめる時と似ているよ」 「言ったな」 「ふふっ」  僕とアーサーは、きっと、とても子煩悩になると思う。 「ノア様の所に赤ちゃんがやってきたら、抱かせてもらえるかな?」 「もちろんさ、瑠衣がテーブルマナーを教えてやってくれ」 「そんな日が来るのかな?」 「来るさ。それからきっと雪也くんにもいずれ……」 「え? 雪也さんにも?」 「ほら、桂人くんの妹に恋しているようだから」 「あぁ、遠距離は大変だから……分からないけどね」  弱気なことを言ってしまった。  アーサーが僕に13年間、月1で手紙を送ってくれたことを思えば、そんなこと言えないはずなのに。 「お互いに、手紙を出し合えるといいな」 「ごめん。僕が返事を一度も出さなかったの……怒ってる?」 「んー、怒ってはいないが、一度位は返事をもらってみたかったな」  アーサーが口を尖らするので、申し訳ない気持ちが増した。 「あの、今からでも遅くない?」 「遅いことはないよ。書いてくれるのか」 「手紙を出すよ。君に」 「同じ所に住んで、いつも一緒なのに?」 「駄目かな」 「嬉しいに決まっているさ! 俺も久しぶりに君に手紙を書くよ」 「それ、何だか楽しそうだね」  Love Letterを出そう。  愛の言葉をしたためて―― ****  ベッドの中で服の上から触れ合い、睦み合っていた。  朝食を取ってから、ずっと――  朝食後すぐに横になることも、白昼堂々、触れ合うことも、したことがないので、新鮮な気分だった。 「海里さん、そろそろイングリッシュガーデンを散歩しませんか」 「いいね。そろそろ起きるか」 「はい」 「じゃあ最後に刻印をひとつ」 「あ……」  最後に、柊一のシャツのボタンを一つ二つ外して、鎖骨の上についている花びらをチュッと吸い上げて、上書きした。 「あ……もうっ」 「大丈夫、シャツでギリギリ隠れる位置だよ。怒った?」 「違います。嬉しいのです。ここ……熱を帯びて……海里さんからのご褒美のようでドキドキします」 「可愛いことを言ってくれるんだな、君って人は、いつも」 「この痕があれば……僕と海里さんは、いつも一緒なんです」  ニコッと微笑む柊一の可愛さに、今日も悶絶した。      

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