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霧の浪漫旅行 38

 柊一さんのやる気に満ちた輝いた顔を、久しぶりに見た。  元々彼は優しく穏やかな性格なのだが、そんな彼の中に流れる長い歴史を汲む冬郷家の当主としての凜々しい面が、今は見え隠れしている。  僕は柊一さまの横顔に、暫し見惚れてしまった。  出会ったのは、まだ彼が10歳の時だった。  おとぎ話が好きな優しい男の子は、弟が生まれたことにより、弟が病気がちだったことにより、背伸びしてでも凜々しくならないといけなかった。  次第に凜々しさを自分のものとして、お父様がご存命の時は、学生でありながら片腕として活躍されていたのだ。 「柊一さんなら、出来ます」 「そうかな? 瑠衣にそう言ってもらえると、ますます自信が持てるよ」 「柊一くん、俺たち協力し合おう」  アーサーも、前向きな柊一さんに協力できるのが嬉しいようだ。 「ずっと僕たちで何か出来ないか……力を合わせてみたいと夢見ていました」  夢は叶う――  その言葉が駆け巡る。 「よーし、そうと決まったら、我が家の紅茶を全て紹介しよう。瑠衣、手伝ってくれないか」 「畏まりました」 「おっと、瑠衣、そうじゃない」 「え?」 「もう主従関係ではないんだよ。君もこの合同企画のメンバーの一員だ」    もう主従関係ではないのか。  僕も……対等に企画に参加していいのか。  そんなことは夢にも思わなかったので、少し尻込みしてしまうよ。  僕の戸惑いは、すぐに三人に伝わったようだ。 「瑠衣と同じ事が出来るなんて、僕、とても嬉しいよ」  柊一さんが僕の手を握って、にっこりと微笑んでくれる。 「瑠衣、兄弟で同じ事をするのは初めてだな。嬉しいぞ」  海里が肩に手を置いてくれる。 「瑠衣と俺はいつも一緒だ。これからは俺の仕事のパートナーにもなってくれ。頼りにしているよ」  最後はアーサーに派手に抱きしめられて、猛烈に照れ臭くなってしまった。   「アーサー、皆が見ているよ」 「悪い! 嬉しくて!」 僕……皆から喜ばれて、頼りにされて、求められているのか。  遠い昔、真っ暗なトンネルを孤独に歩いて行くだけの、夢も希望もない人生だと思っていたのが、嘘のようだ。  今は明るい未来に向かって、心友である柊一さん、僕の兄である海里、僕の恋人のアーサーと、肩を並べて歩いている。 「僕も頑張るよ」 「よし、じゃあ早速試飲会だ」 「合同会社なんだから、一緒に紅茶ブランドの名前も決めたいな」 「何だか、ワクワクするね」  おとぎ話を飛び出した僕たちの顔は、今、夢と希望に溢れている。 大切な人がいる。  その気持ちが、何よりの支えで、何よりの繋がりだ。    永遠に一緒だ。 「あ、あの……冬愛と書いて『とうあ』という名前はどうかな? 冬郷家とアーサーの結びつきを感じていいなと……」  僕が提案すると、海里がもう一文字足してくれた。 「じゃあ『冬愛舎《とうあしゃ》』という紅茶ブランド名はどうだ? 『舎』には自分の兄弟や身内という意味があるから」 「いいね。とてもいいよ! 俺たちは四兄弟みたいなものだし、厳しい冬から愛を見つけ、そこからのハッピーエンドだったもんな」  アーサーも賛成してくれる。  僕たちはその晩一日中、紅茶の試飲をしアイデアを出し合って、有意義に過ごした。

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