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霧の浪漫旅行 41
再びロンドン・グレイ家本宅。
続々と集まってくる人に、僕は圧倒されていた。
今日の新事業発表会……本当に上手く行くのだろうか。
アーサーにスキンケアの話を最初にしたのは、僕だった。
傷ついた身体を癒やしてくれたクリーム、渇いた心を潤してくれたクリームの存在が、過去の僕をどんなに慰めてくれたのか。
そんな話をした時、アーサーは雷に打たれたような衝撃を受けたそうだ。
そこからとんとん拍子に進んだオリジナルのスキンケアブランド開発、そして商品化。
英国には女性用のクリームは充分過ぎる程あったが、男性用に特化したものは見かけなかった。
試作品を配布したら、評判を呼び、大々的に商品化することになり、このような場でお披露目することになった。
アーサーの両親は、家督を放棄してしまったアーサーの行く末を心配していたので、新規事業への援助は惜しまなかった。
僕もアーサーの片腕として、ここ暫くは奔走する日々だった。
君の役に立てるのが嬉しくて、夢中になった。
「瑠衣、そろそろ行かないと」
「……う……ん」
海里が呼びに来てくれたが、緊張して足が動かない。
窓辺で暗幕のようなカーテンを握りしめた手は、小刻みに震えていた。
僕のような人間は、人前に出るべきではない。
アーサーの名を穢すことになるのでは?
不安は不安を呼ぶ。
「瑠衣、しっかりしろ」
「海里……やっぱり僕は……人前に出ない方がいいのでは」
「おいっ、そんなことをしたら、アーサーが悲しむぞ」
「でも……自信が無いんだ」
「瑠衣……」
海里が優しくハグしてくれる。
「お前なら大丈夫。瑠衣の……この美しい肌を皆に見せてやるといい」
「……兄さん」
「自慢の弟なんだ。瑠衣はどんな場所に出しても恥ずかしくない紳士になったな」
「うっ……」
「さぁ背筋を伸ばし顔をあげて……瑠衣とアーサーの愛は同じ方向を見ているのだろう?」
「あ……ありがとう」
海里の後ろには、柊一さんも控えていた。
「瑠衣なら大丈夫だよ」
「ありがとう」
「今日の瑠衣はのとても美しいよ」
グレイ家の大広間には、紳士淑女が集まっていた。
「さぁグレイ家の新事業、スキンケアブランド『RーGray』のお披露目です。ここで共にブランド開発に携わった大切なパートナーを紹介します」
アーサーの誇らしげな声が、高らかにホールに響く。
「Rui Kirishima!」
僕の名が、真っ直ぐに呼ばれる。
サッとスポットライトを浴びる。
僕はカツンと音を立てて、大理石の床を蹴った。
進もう!
君が目指す道に向かって、僕も前進しよう!
豪華なシャンデリアの下で、拍手喝采を浴びる。
見渡せば、アーサーの両親、ノア夫妻、海里、柊一さん、おばあさま、
会場の全ての人から、暖かく歓迎されていた。
「アーサー!」
「瑠衣、こちらへ」
アーサー、君の手を取ろう!
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