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第4話

 湯を浴びてさっぱりして、早めに床に就いたにも関わらず、ジェイはベッドの中で、てんてんと寝返りを打っていた。  今日は一日じゅう走りどおしでくたびれているはずなのに、一向に眠気がやってこない。  ジェイはシャツの襟元を掴み、唇を噛んだ。 「……なんだよ、これ……」  胸の内側がぐずぐずと煮え立つようにざわめいて、とてもじゃないが、じっとしていられない。  ジェイは妙に熱っぽい溜め息をつき、戸口のほうに寝返りをうって、ぴくりと耳を立てた。  誰かが足音をひそめて、静かに階段を上がり、廊下をゆっくりと近づいてくる。  静かに扉が開いて、廊下を照らすランプの灯りが細く床に這った。  扉は人影をひとり通して、音もなく閉じた。  暗い部屋の中、迷わずベッドに歩み寄る人影から、胸のざわめく、爽やかな香りが漂ってくる。  鼻腔から大きく息を吸い、ジェイはベッドに起きあがった。 「……シウ」 「まだ起きていたのか」  窓の向こうの明るい月が薄手の窓布を透かして、シウの銀色の髪と大きな耳を浮かび上がらせる。 「シウ。なぁ。オレ、変かも…」  ジェイはのろのろと膝を立て、身体を丸めて、自分の腕を掻き抱く。 寝間着やシーツと肌が触れ合うだけで、全身に鳥肌が立った。  シウは傍らに膝をつき、ジェイの顔を覗き込んだ。 「苦しいか」  ジェイは曖昧に首を振った。苦痛はないけれど、どこかがおかしくなっているのは間違いない。 「あつい……、痒い……? 分かんねえ」 「どのあたりだ」  シウの銀青の目で見つめられると、胸のざわめきが強くなるようだった。 早鐘を打つ胸を押さえて、ジェイは顔を伏せ、膝を胸に引き寄せる。 「耳の、つけね……。それと、背中、……腰?」  上擦りそうな声を抑えて途切れ途切れに答えると、背中にシウの手が回った。 大きな掌で、ゆっくりと腰から首元へ撫で上げられて、ジェイは浅い息を吐く。 「……ジェイ?」  剣だこのある硬い手が、ジェイの跳ねっ毛を逆立てて首筋を辿り、耳の付け根に生えた、柔らかい毛皮を掻き分ける。 「ん……っ、ふ、ぅ、……そ、こ。もっと、して」  ジェイはうっとりと目を閉じ、深く息をついた。 強張っていた声が、箍をなくして、甘く緩みはじめる。  身体の中で滞っていたもどかしさが、シウの指で行き先を見つけて、流れ出したかのようだった。  シーツとズボンと下履きで幾重にも隠された下で、下肢が熱を帯び始めた。  気持ちの良さに力が抜け、ジェイは胸元に抱いていた膝を解き、シウの胸元に額を預けてしなだれかかった。  シウはわずかに目を細めると、片手を、くたりと垂れた兎耳の根元に添えたまま、ジェイを抱きとめ、腰に回した手で、背中から、下履きの中に指を差し入れた。 「んぁあっ……!」  皮膚と皮膚で直に触れ合った背骨から、びりりと尻尾にかけて稲妻が走る。 ジェイは身体を跳ねさせ、鼻に抜ける甘い声を上げた。  まるで雌のような甲高い声に、はっと我に返って、ジェイは両手で口を塞いだ。 「い、今のは、違っ……」 「ここ、だな?」 「ひ……っ、ぅん……っ!」  再び触れたシウの指が、するりと背中のくぼみを滑りおりて、先程よりずっと的確にジェイを追い詰める。  こらえきれずに、かくりと顎を引いて頷いてしまう。  シウは静かに、ジェイの顔を覗いて尋ねた。 「もっと欲しいか」 「………………ほしい」  シウの冷たい青の目は、月の光をはじいて、燃えるようにきらめいていた。  ジェイの、捕らえられ、噛み裂かれるものとしての第六感が、眼鏡の奥に隠されても読み間違えることのない、激しい飢えを嗅ぎ付ける。  ぞくり、と震える背中は、喰われるものの恐れだろうか。それとも、これから先に待っている、未知に慄いているのだろうか。  もっと、先があるなら知りたい。  ――――――もっと、ほしい。  ジェイは薄く唇を開くと、 「……シウは?」  間近に輝く青い瞳を覗き、首を傾けて問いかける。  シウは、ぐるる、と低く喉を鳴らして、ジェイのシーツを剥ぎ取った。

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