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第5話 [R-18]
ジェイのおとがいを支えた手に、ぐっと力が籠って、
「……待ったは聞かんぞ」
掠れた低い声が耳元の柔らかな毛を震わせる。
ジェイは思わず、ぎゅっときつく目を瞑った。
一息にシャツをたくし上げられ、シウの大きな掌が直接肌に触れる。
夜気に触れて竦んだ身体を、温かく、剣ダコのある手が腹から胸へゆっくりと撫で上げていく。
ジェイはその心地よさに、ほうっと息をつきて、おそるおそる瞼を開いた。
シウは輝く青銀の目を細めて視線を交わすと、眼鏡越しに悪戯めいた笑みを返す。
ジェイの身体を導いてベッドに横たえると、細い腹の上に乗り上げ、身を屈めた。
ちう、と音を立てて、脇腹に唇が落ちる。
「わ……っ、くすぐってえよ」
ジェイは身をすくめ、思わず笑いだして身をよじる。
未発達な身体に浮き出た薄い腹筋の溝を、シウは乾いた唇でするするとなぞる。
形のいい臍にちゅっとくちづけると、上目遣いに、にやりと人の悪い笑みを浮かべた。見せつけるように大きく口を開くと、ジェイの腰骨に、がぶりと鋭い犬歯を立てる。
「ん、っぁ」
じくりと淡い痛みとともに、ジェイのうす白い肌に浅く歯形が残される。
「ジェイ……」
熱に浮かされて掠れた声と、甘さを孕んだ吐息が、唾液に濡れた腰骨にかかる。
「し、う……?」
ジェイは戸惑いを浮かべ、肘をついて身体を起こして、下肢に顔をうずめるシウを見下ろした。
シウは黙したままジェイの腰から両の手を差し込んで、ずるりとズボンと下履きを引き下ろし、尻を掬い上げて仰向けに転がす。
「ぅ、わっ、シウ!」
咄嗟に空を蹴り上げたジェイの踵を躱し、足首を掴んで持ち上げる。
高く掲げた膝を、ぐいと肩に担ぎ上げると、シウは見せつけるように笑みを浮かべて大きく口を開き、皮膚の下に浮き出た膝骨に、かりりと甘く歯を立てた。
「ふ、っぁ……」
ジェイの目尻から、ぽろりと涙がこぼれる。
「どうして泣く?」
シウは身を屈めると、脚の間で震えだしたジェイの屹立に、ふうと息を吹きかけた。
涙とともにじわりと滲み出たしずくが、浅い割れ目を伝って、色づきかけた果実のようにほの赤い、可愛らしい先端を濡らす。
ジェイは混乱と快感の両方を受け止めかねて、いやいやと頭を振り、シーツに強く耳を押しつけた。
シウの熱い舌が、内股の薄い皮膚に浮いた汗を舐め、会陰からさらに後ろへ滑りこんでいく。
舌先が、白い双丘に隠された場所へ向かっていることに嫌でも気づかされ、ジェイは、シウの髪に指を絡めて縋りついた。
「や、ぁっ……ッ! 待った、シウ、まって……!」
「言った筈だ。待ったは聞かない」
シウは余裕を失った平坦な声で言い放つと、頭を一振りして縋りつく手を払いのけた。
銀灰色の大きな耳は、シウの興奮と獣性を表して、べたりと頭に沿って伏せられている。
シウはジェイの腿の間に膝で乗り上げて、野兎の必死の抵抗をいともたやすく抑え込むと、
「それに、もう我慢が効かない」
低く笑う声とともに、衣服越しに、ぐっと腰元の熱を押し当てた。
銀狼の瞳孔はぎらりと細く研がれて、冷たく光る青い目が、無防備にさらけ出された胸板と腹を辿り、下肢をなぞる。
舌舐めずりした薄い唇に浮かぶ獰猛な笑みに、ジェイはいっぺんに顔を引きつらせて激しく頭を振り、シウの胸に手をついて押し返した。
「やだ…! むりだ、待てって! そんなん、無理だ……!!」
「悪いが、無理でも聞いてもらう」
荒野の街は荒くれ者の世界だ。
性経験のないジェイであっても、酒場の酔客たちの冗談を聞きかじって、男同士でそういう行為があることは知っている。
「…………そ、んな、でかいの、おれ、入らね……」
震える指で上着の襟を掴み、涙目で首を振る。
見下ろすシウは、唐突にぴたりと動きを止めると、喉の奥で、ぐ……っと低い唸りをあげた。
険しい顔をして息をつめたまま、ジェイに覆いかぶさった身体を引き、膝裏を戒めた手を放すと、ずれてもいない眼鏡を押さえて、深く、深く息をついた。
「シウ……?」
「煽っている、つもりはないんだろうな」
眼鏡を押さえた手で顔を覆ったまま、低く唸るシウを見上げ、ジェイは首を捻る。
「ぅ、え……?」
「いい、分かった」
ふう、と呆れたように息をつくと、シウは顔をあげて、指の背でジェイの頬にそっと触れた。
おそるおそる見上げたシウの目は、月のように穏やかな淡い青を取り戻している。
シウが眼鏡越しに、ふっと笑み、低く尻尾を揺らした。緊張を孕んでいた空気が、緩む。
「痛い目には遭わせない」
「…………本当だな」
ジェイは握りこぶしで頬に滲んだ涙を乱暴に拭い、シウを見返す。
「ああ」
「絶対だぞ」
「約束する」
シウは顔を伏せ、ジェイの目尻をぺろりと舐めとって頷いた。
「…………なら、」
いいよ、と声にならない声で囁き、ジェイは狼の腕の中に身を投げ出した。
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