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赤松佳人の記憶
──熱い。
体が溶けそう。目の前がクラクラする。
ベッドのシーツは俺の汗でじっとり湿って気持ち悪い。──いや、汗だけじゃない。涎とか、精液とか、後ろの穴から漏れてくる正体不明の汁とか、そう言うのでぐしょぐしょだ。
熱にうなされて朦朧としていると、今日何度目か分からない甘い疼きが体の底から湧き上がってきた。何度も出して力なく垂れていた俺の芯が、その疼きに反応して頭をもたげる。
──もうしたくない。もう疲れた、もう眠りたい。
俺の意思に反して、手が勝手に後ろの穴にのびる。弄りまくって、とっくにグズグズになったソコは何の抵抗もなく指を2本飲み込んだ。
「んあっ」
物足りなくて涎を垂らしていたそこが、悦んできゅうきゅう締まる。ナカが収縮するたびに、内壁に指が当たる快楽に悶えた。
それでも足りなくて指を抜き差しすると、気持ちいいところに指が当たって何度もイく。触ってもないのに水のような精液がシーツに散る。
(足りない……)
何度、何十回達しても満たされない。
イったばかりにも関わらず、物足りなげにヒクつく穴に3本目の指を入れても足りない。
(欲しい……。α……俺のα!)
ふと見上げると、ベッドの横に東が立っていた。
東の熱っぽい目と目が合った瞬間、俺は必死に東へ手を伸ばしていた。
「あずまっ! あずまきて!」
すぐそこにいるのに、手が届かない。
なぜか東も動かないでいる。
なんで。なんでなんでなんでなんで。
俺は早く欲しいのに。もう自分の指なんかじゃ満足できない。東の熱がお腹に欲して欲しくてたまらない。
東もだろ? 東も俺が欲しいだろ?
そんな腹ぺこの目をして。俺を犯したいって顔して。
もう我慢しなくていい。〝あの時〟とは違うから。あの時は友達だったけど、今は違うから。
俺たちは番なんだから。
「あずまっ」
東に犯される想像をして達した。目の前が真っ白に弾けて、太ももが激しく痙攣する。
それでも熱は治らない。渇きは増すばかりで苦しい。
やっぱりαじゃいないと、Ωの俺が満足しない。
αのそれで、体の奥の奥までめちゃくちゃに突かれたい!
溢れるくらいの精液を、俺の中に注いで欲しい!
すがるような気持ちで視線を上げると、さっきまで東がいた場所には誰もいなかった。
「あずま……?」
どこ。どこにいった。
なんでいないんだ、さっきまでそこにいたのに。
どこだ。どこだ。どこだ。どこだ。
どこだ──俺のα!
気がつくと、熱のほとぼりは冷めていた。
体は鉛のように重く、擦り過ぎた陰茎は赤く腫れて痛む。
ぐちゃぐちゃのベッドに全裸で横たわっている自分が間抜けで、酷く虚しかった。
今回の発情期も1人で終えた。
ずっと1人で耐え抜いてる。
発情期で熱に浮かされるたびに現れるものがある。
東の幻覚だ。
俺の欲望が作り出した東の幻覚は、ベッドの横にいて、いやらしい目で俺を見ている。
全部が俺の欲望の具現だ。発情期の時にそばにいる東も。俺を欲しがる東も。
全部全部ニセモノ。
俺だけが欲しがってる。
本物は俺のそばにいない。今、どこで何をしているのかも知らない。
本物の東は、俺がどれだけ欲しても、応えてくれない。
(俺はこんなに東が欲しいのに、東は俺なんていらなかった……?)
分かってる。東は、人生を台無しにされて俺を恨んでる。だから何も言わずに消えた。そして俺は捨てられた。
全部分かってるのに、欲しがらずにはいられない。
Ωの俺は、いつでもαの東を求めてる。
「苦しい……」
呟いた声は枯れて酷い声だった。
虚しい。なにもかもが。
Ωも。発情期も。番というシステムも。俺自身も。すべて虚しい。
底の見えない泥沼。そこに沈んでいくように、俺はまた眠った。
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