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第1部 5

「……ごめ、東、俺……っ」  ようやく言葉にできた謝罪は、突然溢れ出してきた涙のせいでうまく言えなかった。 「俺、そんな酷いことお前にしたのに……俺、昨日っ、親友じゃないのかよとか、最低なこと言って……」  昨日に戻って、俺をぶん殴りたい。  昨日の俺だけじゃない。  今の俺も。8年前の俺も、殺してやりたくなる。 「……俺も自分を抑えきれなくて、お前の首を噛んだんだから同罪だ」  そんなことない、と否定する前に東がまた口を開いた。 「お前を番にしといて、俺は……怖くなって逃げた」  東の声が震える。 「怖くなった?」  αの東が怖くなるものとは、一体何なんだろう。  聞き返してはみたが、東はそれについてはそれ以上何も言うことはなかった。  東からは何も話したくない、という雰囲気が漂う。 「……俺はもう出るから。テーブルにタクシー代を置いておく」 「出るって、こんな朝から?」 「仕事が溜まってるんだ」  東はそのまま、本当に部屋を出て行こうとする。  なんの未練もなさそうにあっさりと向けられた背中。  東に拒絶されたような気がした。    その背中を見た瞬間、佳人は自分の知らないうちに聞いていた。 「俺たち、友達には戻れないのか……?」    背を向けたままの東が止まる。    「そうだな」と東の声が聞こえた。 「友達には戻れねぇよ」  その時も東は佳人を見ないままだった。  頭をガンと後ろから殴られたようなショック。  同時に「そうだよな」と納得する自分もいた。

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