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第39 自由を求めた代償 10

揺すっていた身体から不意に力が抜けた感覚に、ギガイが入れていた自分のモノを引き抜いた。 体勢を返した身体は、予想通り意識を手放してしまっていた。意識を失い弛緩した事で挿入はむしろ楽になる。包み込む内壁の感触に、イこうと思えばイけもするだろう。だが、こんな状態のレフラを抱く気にはどうしても成れなかった。 子を成して自由を得ると言っていた。その為に泣き崩れながらも必死に耐えていた姿が脳裏を過る。 中でイった様子がなければ、どれほど失望するのだろう。 だが、怒りにまかせて抱いたとしても、むなしさばかりが広がる中、これ以上の交わりはギガイにとっても本意ではなかった。 「なぜ離れようとする。なぜ拒絶する?」 唯一の御饌として慈しんで居たいのに。それを許さないのはなぜなのか。 拒絶するだけの言葉を聞くのが嫌で、言葉を封じたとしても、レフラは身体全体でギガイを拒否するだけだった。 手の甲を噛み切る程に追い詰められた時でさえ、縋る事無く自分一人で耐えるのだ。 まだろくに解されていない窄みに指を捻じ込んで潤いの足りない内壁を漁っていた時も、昨日のようにギガイを睨み付けるような、凜とした目を向けられると思っていた。追い詰められたとしても気高い雰囲気を纏ったまま。自分を明け渡す事などないと、語るような目が向けられると思っていたのに。向けられた顔は予想もしていないものだった。 泣き崩れた小さな子どものような、(いとけな)い表情。それは、日頃は役割だとか使命だとかそんなものに隠された、レフラ自身の脆さなのだろう。そんな脆さを差し出すならば、丸ごと慈しんで癒やすはずなのに。 日頃のそんな矜持さえも保てないほどに追い詰められてなお、ギガイへは縋る素振りのない様子はますますギガイを不快にした。 どれだけ拒絶されようと、ギガイはレフラを手放す気は全くない。レフラの気高さが番を定められる事を拒むなら、孕み族の(さが)をギガイは絡め取るだけだった。 (心が離れる事を望むなら、身体を求めさせてやろう) 癒し癒され共に在る事を願っていたギガイにとって、それが好ましいとは思えなかったが、望む自由を与えてやれない以上は同じなはずだ。 「なぜ、お前は私を拒むのだ…」 疲れ果てて深い眠りにつくレフラの身体を抱き上げる。立てた片膝で背を支え、腕の中に囲い込んだ身体は、すっぽり胸元に収まっていた。 生きる意味を見失っていた幼い頃、唯一無二の守るべき存在として、ギガイを支えた全てだったはずなのに。 「疲れた……」 揺れる感情に頭痛を感じて、今だけはと目を瞑る。触れあったところから感じる温もりが、ささくれだったギガイの心を慰めた。 『お前だけの御饌が居るよ。お前だけを愛してくれて、癒やしてくれるそんな番だ』 遠くから、聞こえるような記憶の声。 かつて支えにしたはずのその声が、ギガイの意識と共に消えていった。

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