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第40 籠の中の鳥 1

寝台へ身体を起こした途端、窄みから腰骨当たりに走る激痛にレフラは小さな呻きを思わず漏らした。いつの間に気を失っていたのか、日は落ち始めているようだった。数刻前に散々甚振られた後孔が、熱を持って今もじんじんと痛みを訴えていた。 途中からの記憶はなかった。そして身体の奥から零れるような遂情の痕も感じられず、レフラはズルズルと起こしたばかりの身体を寝台へ転がした。 「いつになれば役目を果たせるんでしょうか?」 ペタッとした膨らみのない下腹部に手を添える。子を成せる胎をこの奥に持つといっても、肝心な子種がなければ子は宿らないのに、ろくに務めを果たせないまま、主の不興ばかりを買ってしまう状態なのだ。このままでは、御饌としての立場をいつ失ってしまうかも分からなかった。 (御饌として、何があっても耐えてみせると決めていたのに) あまりの不甲斐なさにレフラは奥歯を強く噛みしめた。 完全な男性体へ性を定めた身体ならともかく、いまのレフラの身体では、かつて夢見たように剣を持って戦う事は難しい。 役目を果たせないまま御饌としての立場を失えば、レフラにはもう一族を守る術が残されていないのだ。 アンドロギュヌスと言うにもおこがましいような歪な身体を指でなぞる。 女性のように目立たない喉頭に、膨らむ事のない胸。薄い体毛や肌のきめ、細い身体は男らしさからはかけ離れている。それなのに股間には子種を作る袋がない事やだいぶ小ぶりである事を除けば、ギガイの股間についているモノと同様なモノが付いていた。 跳び族の次期族長としても、御饌としても不完全な身体だった。 辿っていた指が股間近くへ到達しそうになって、レフラは大きな溜息と共に指を止めた。 今さらこの身体を憂えたってどうしようもないのだ。問題はこの先、どうやって務めを果たしていくかという事だった。 くぅぅぅ…。 こんな時にでも空腹を訴えた腹に、レフラはどこか笑いたくなった。 「クククッ」 笑うよりも先に聞こえた音に、レフラがガバッと身体を起こす。その途端に走った痛みに呻いて伏せた頭の上から、この地で最も聞き慣れた主の声が降ってきた。 「お前は自慰をしながら腹を鳴らすのか?」 「自慰などしてはいません!!」 思わぬタイミングで腹の音を聞かれただけでも恥ずかしくて仕方が無いのに、とんでもない濡れ衣を着せられてレフラがムキになる。思わず睨み付けるように顔を上げたレフラの視線がギガイのそれと絡み合った。 角度によって金色にも見える目だった。眼光だけで他を威圧して従えてしまうような、強い光を持っていた。 その目に思わず引き寄せられる。恐れを感じてもおかしくないはずなのに。なぜか別な感情を感じて目が離せなかった。 (金の奥…茶色が何だか違っている……) 今まで赤みがかった茶色に見えていた目の色が、今日に限ってなぜか琥珀色染みて見えたせいかもしれない。 「そう睨むな、冗談だ」 どこか笑いを含んだような声音にレフラの意識がハッとする。ようやく改めて不興を買う可能性がある態度だったと気が付いて、腹の底にヒヤッと冷たいものを感じた。 (たった今、反省したばかりだったのに・・・) そんな焦りを抱こうとしたレフラの身体に、ふわりと布が掛けられた。

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