43 / 382

第43 籠の中の鳥 4

隣へ続く扉を開き、ギガイが足を踏み入れる。途端に感じた懐かしい匂いに、レフラは周りを見回した。部屋を飾る多数の鉢。そこには様々な樹木が植えられて、跳び族の地と同じ青葉の香を放っていた。 「ここは……?」 「お前の為に設えた部屋だ。跳び族は自然を好むと聞いたため、お前の故郷の植物に近い草木を選んでいるが、他に好む物があれば好きに変えると良い」 緑に溢れたこの部屋が黒族の誰かの為の部屋だとは確かに考えにくい。それでも、レフラの為に設えたというギガイの言葉を、素直に信じる事もできなかった。 大小、様々なサイズながら、覚えのある木や好きな花がそこにはあった。確かにそれはレフラを癒やしてくれる。 受けた仕打ちを思えば隷属の身である事は間違いないはずなのに。なぜここまで与えられるのか。 これもただの気まぐれなのか。レフラにはやっぱり分からなかった。 「肉や魚は食べられるか?」 大きく弧を描くような窓辺に沿ってソファーが設えられていた。その傍の卓上には、レフラ一人では食べきれない食事が大量に並んでいる。 「少しは……ただ、あまり得意ではありません……」 混乱した頭では受け答えさえ覚束ない。だがそんなレフラの様子に気付いていないのか、流しているのか。ギガイは特に気にした様子もなく、卓上の皿の中から料理を物色しているようだった。 「野菜や果物の方が好みと言う事か?」 「はい…」 応えを持っている相手へ聞く事さえできないのだから、これ以上考えていても無駄なのだろう。レフラもまた思考を振り払って、卓上の料理へと視線を向けた。 レフラの回答にギガイが卓上からいくつかの皿を手元に寄せる。そのままソファーへくつろいだギガイが、レフラの身体を自分の身体とクッションへもたれ掛からせながら、引き寄せた皿を手渡した。 「…ギガイ様、この体勢は?」 これだけ広いソファーがありながら、なぜギガイの胡坐をかいた片膝の上に腰を落としているのだろう。ただでさえ混乱が続いているレフラの頭は、飛び交う疑問でいっぱいだった。 「特に気にする事はない」 気にならないはずがないのに。主であるギガイにそう言われてしまったのなら、レフラには追求のしようがない。ギガイの意図が分からない以上は、この状況を安易にはね除ける事もできなかった。 何よりも、レフラはこれ以上悩む事に疲れていた。もういい、と大人しく差し込まれたクッションとギガイの身体へもたれかかる。 差し出された皿には跳び族の地では見た事のないような食材などが乗っていた。蒸された野菜や豆でさえ、ジュレという変わったソースが和えられたりと、一手間掛けられている。 手渡された皿を少しずつ片付けながらも、直近で見張られているような状況にレフラはほとんど味が分からなかった。 (こんなに美味しそうな料理なのに…) もったいない、と気落ちする。その様子にギガイがレフラの髪を掻き上げて、横から顔を覗き込んだ。

ともだちにシェアしよう!