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第46 籠の中の鳥 7

素直でなければ与えられる苦痛があると言っていた。 吹き込まれた言葉とは裏腹に、今のレフラにこの行為を受ける以外の選択肢など残っていない。それをギガイの手によって無理やりではなく、レフラ自身で受け入れなくてはいけないのだ。 「ふっ…ぁっ……っぁ……」 口蓋から舌裏まで、感じる所を教え込むようにギガイの指が蹂躙する。そしてそのまま後孔への挿入を彷彿させる動きで口腔内を出し入れされる。たった二本とはいえ太く雄々しい指だ。閉じきれない唇の口角からは涎が糸を引いていく。 快楽と苛まれた記憶に怯えながらも身じろぐ事さえできないまま、レフラは腰に回されたギガイの腕に縋り付いた。 「そうだな、そうやってずっと私にしがみついていろ」 ようやく口腔内を解放されて、レフラの身体が返される。 これからこのまま抱かれるのだろうか。不安でどんどん膨らんだレフラの心はすでに限界に近かった。 だがギガイにそのつもりは無かったのか。返した身体が抱き寄せられる。まるで『頑張った』とでも言うかのようにその背中を優しく叩かれ、信じられない想いでその温もりを感じていた。 支配者たる雄の匂いがレフラの身体を包み込む。レフラに与える責めも許しも、決めるのはギガイだけなのだ。 突然解放された戸惑いのまま、ギガイの方へ視線を向ければ、 絡まり合う目は愛おしい者でも見るように、柔らかく細められていた。 「分かったな」 頭をそっと撫でる手も、答えを促す低い声も慈しんでいるようで、レフラの中に動揺が波紋のように広がっていった。 「……はい」 その問いに拒否する事は許されていない。 隷属の身なのだから仕方がない。そんな事は分かっている。使命として受け入れている。そして。 「素直で良い子だ。ずっとそうであれ。大切にする」 言葉の通り従順である間は、御饌として愛しんで貰えるのだろう。 失わずに済んだ務めを果たせる状況に、いまは安堵しても良いはずだった。 だが、そんな限られた慈しみだと分かっているはずなのに。初めて得た温もりや、向けられた愛情に、一瞬だけでも本物と錯覚しそうになって沈む心が辛かった。 堪えるように目を瞑る。 その暗闇の奥で幼い自分が泣いていた。 子を生むだけが存在価値だと教えられ、レフラの想いや在り方などは誰にとっても無価値なものだと告げられた。あの日の自分がそこにいた。 『自分を見て。自分の存在を誰か認めて』 叶わない願いはとうに棄てたと思っていたのに。初めて愛しむように触れられて、きっと何かがおかしくなっていたのだろう。 (今さらこんな事を嘆いて何になるんです) 御饌として子を成す生き方しか許されないのなら、せめてそれを使命として誇りだけは持っていようと決めたのだ。 状況を辛いと嘆いてしまえば、レフラにとってそれは、無価値である自分を受け入れてしまう事と同義だった。 そう繰り返し思うのに。 御饌として生きてきた日々の中。レフラとして愛される事はないのだと知っていたはずの事実が、今はなぜだか痛かった。

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